「会社が息苦しい」人が目指すべき新しい共同体 抑圧から信頼へと日本社会がシフトしつつある

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かと言って、現実に日常生活を送っているなかで、寺にお参りをすれば心が癒されるかというと、そうでもありません。寺は、本来救済のためにあるものなのに、今は、ただの観光名所です。病気にかかって病院に行ったのに、診察を受けずに、建物を見て「すごいなあ」と言っているようなものですよ(笑)。既存の宗教は、現代人の求めるものに対して、あまりにも適していないわけです。

一方で、スピリチュアルにはまり、それで充足している人は増えています。では、宗教というのはいったい何のためにあるのでしょう?

出世や成功よりも、持続する人生

以前、僧侶の藤田一照さんから、こんなお話を聞きました。恋人ができない、病気が苦しいなど、現世利益に対する答えはスピリチュアルなどで用意されていたとしても、最後に残された「いつか人は死ぬ」というような根源的なところを問うのが宗教なのだ、と。

藤原新也さんの『なにも願わない手を合わせる』という著作がありますが、道端のお地蔵さんに手を合わせる人々がいても、決してそれがお願いを叶えてくれるわけではありません。それでも、なぜ手を合わせるのか。それは、自分がそのお地蔵さんを守りたいという姿勢なのではないかというのです。

それはつまり、人生の姿勢ということでもあるでしょう。感謝の気持ちを持ったり、自分がこの御霊を守ってあげたいというポジティブな思いをくり返していくことで、自然とその人の心が浄化されていく。

同じように、人生の姿勢として、「何かをやってほしい」ではなく、「自分が何かをすることによって、自分が変わっていこう」という感覚を求めている人は、いま多いのではないでしょうか。そこに『モンク思考』はつながっています。

より大きな目で、俯瞰的に自分と社会の関係を見るというのは、とても大事なことですし、本書は、出世や成功などの現世利益を求める自己啓発書ではなく、持続する人生というものを考えるために読むものです。

そしてゴールではなく、続いていくプロセスのほうが大事だということが非常によくわかります。どういう姿勢でこれからを生きていくのか。それを考えたい人に最適の一冊です。

(構成:泉美木蘭)

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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