デルタ株とワクチン接種、途上国は時間との戦い アジア開発銀行の浅川総裁に聞く「支援と課題」

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――アジア開発銀行域内の経済成長見通しは?

昨年、アジア途上国全体は60年ぶりのマイナス成長(▲0.1%)になった。今年は経済好調のアメリカ、中国に向けた輸出拡大が追い風だが、域内の消費は弱く、U字回復と言える。

今年の成長率見通しでは、中国の8.1%増やインドの10%増が目立つ一方、感染拡大は依然最大のリスクであり、現在はタイやインドネシアの状況が悪い。アジアに多い観光立国では一部の例外を除き、タイやフィジー、クックなどの太平洋島嶼国は総じて厳しい。

アメリカ主導の国際協調体制は途上国の援軍

――自国通貨基盤の弱い途上国は、経済正常化の過程で起こりうる金融ストレスに対しても脆弱です。

アメリカを中心とした金融・財政政策の国際協調路線は(途上国の金融・財政状況にも配慮するため)援軍だ。今起きている輸送コスト高騰や米国のインフレ懸念も一時的という見方が強い。

現在のところ、域内では特殊要因を抱えるミャンマーを除けば、大きな通貨下落に悩む国はほとんどない。2013年のテーパータントラム(アメリカの金融量的緩和の縮小懸念から起きた世界的な市場混乱)のときより、各国の経常収支ポジションは改善している。資本流出や通貨下落に対する耐性はある程度できていると言っていい。

ただ、パンデミックへの対応から加盟国の公的債務は一段と膨らんだ。ドル建て債務が多い。将来のアメリカの利上げ局面では途上国にストレスがかかるのは間違いない。注意深く見守る必要がある。

――アジア開発銀行は、従来のダムや道路の建設融資を越えて、直接的な財政支援を行いましたね。

昨年4月、われわれはパンデミックに対する200億ドルの支援パッケージを組んだ。この中には加盟国への財政支援メニューが含まれている。

コロナ危機の中、各国は社会保障の強化や旅行業への支援を始めたが、一方で税収は落ち込んだ。加盟国への財政支援では、無償資金と融資を組み合わせ、民間企業向け融資も盛り込んだ。世界銀行や国際協力機構(JICA)、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)なども協調融資を進めてくれた。

コロナが収束すれば、アジア開発銀行は再びダムや道路中心に戻るだろう。しかし今回、教育や保健、社会保障の充実が途上国でも不可欠だと痛感した。税政策の整備や国民皆保険の導入など社会システムの構築を啓蒙するナレッジバンクとしても展開していきたい。

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野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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