国立公園は「日本とアメリカ」ではこんなに違う 日本では「9割が私有地」の国立公園もある

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“物語”に魅せられると、その地には憧れが生まれる。「いつかは行くぜ」と決意させる衝動を身体の内に生じさせる。そこで思う。日本もまた、同様の状況にあるのだろうかと。

「団塊の世代は尾瀬などに対して高い認知度が見られますが、若い世代にはとても低い認知度です。国立公園で何ができるのかを知らないし、何かができるとも思っていない。また残念ながら、実際に訪れているのに、そこが国立公園だと知らなかったという人も多いのです」。

どうやら今のところ日本の国立公園に“物語”は見いだしにくいようである。そして日光東照宮や富士山が多くの人に知られているほど、それらが国立公園内にあることを知る人がいるとは思えない。

こうした認知度の低さは、きっと発信方法だけが理由ではないのだろう。「国立公園とは何か? どのようなところか?」といった根源的な問いに対する明瞭な答えが広く共有できていないことにもよる。そのように尾﨑さんは推測している。

「利用」の時代に入り存在意義の確立が急がれる

今、国立公園は「利用」の時代に入った。機運の高まりは2016年に「国立公園満喫プロジェクト」が始まったことにある。

同プロジェクトは先行的に8カ所の国立公園で取り組みを始めた施策で、訪日外国人による利用者数を’20年までに1000万人へ増やすことを目指したもの。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で目標は達成できなかったが、多言語化、ビジターセンターなどへのWi-Fi導入、SNS発信、ウェブサイトの制作をはじめとした利用者受け入れのための基盤は整備された。

各公園の管理者から届く声によれば、上質なツーリズムを提供できる環境づくりは大きく進展したことがわかったという。

「それでも先日の有識者会議では、各公園の取り組みはわかったけれども、国立公園としてのブランドプロミスが見えない。日本の国立公園にはこれがあるという核を見いだし、しっかりと発信していくべきだ、という課題をいただきました」。

国立公園全体を貫くコンセプトが不足していると指摘された今、アイデンティティづくりは目下の課題。「電気自動車による利用推進やプラスチックゴミの削減など、環境施策の最先端に触れられる場所とするのが良いのではないか」といった意見交換を行いながら、日本の国立公園ならではの存在意義を早急に見いだしたいとする。

そして多くの人に「利用」し、地域にお金を落としてもらうことで、また自然が「守られる」という好循環の創出を、尾﨑さんたちは目指している。

写真:Char/編集・文:小山内 隆

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