凡人経営者と「名経営者」とのあまりに決定的な差 日立を救った「川村隆」は何がすごかったのか

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「自分で意思決定ができ、人生の方向づけができる人間になることの大切さ」を、それができない代表格である寅さんが説教する。川村さんが印象深く記憶にとどめたのは、場面のおかしさもあるが、自身、道が二股に分かれていたとき、真正面から向き合い、自分で人生の方向づけをすることを課してきたからだろう。

「ザ・ラストマン」のラストメッセージ

森のとある切り株に腰を下ろし、仕事論や人生論を説く川村さんの眼差しは、時に厳しさを帯び、現役世代へ諫言を呈する。

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「欧米と比較すると受動的で真面目な正規社員ばかりが多くなっている」

「競争を望まず、痛みのある改革に取り組まず、事態好転と自然解決のみを待って様子見をするという不健全体質になってしまい、熱意なく硬直した職場が日本中に蔓延する体たらくにしてしまった」

「日本ではアクセルを踏む経営者が少数派であるところが問題であるのに、(日本の企業統治は)そこに焦点が集まらずに、それ以前の法令遵守が不備だというところでとどまって、不遵守にどういうブレーキをかけるか、という話ばかりになるというのは本当に情けないことだ」

そして、経営者にラストマンとしての気概を求め、望まれる組織のあり方をこう指南する。

「仕事の場面においても小集団において最終意思決定者つまり『ザ・ラストマン』になる機会を少しずつ作り、小さなラストマンを職場に増やして次第に大きなラストマンになる人が出るよう工夫することなのだ」

「早く進め、早く間違えて、早く直す」

一俗六仙の境地で語る人生訓とともに、「一俗」に凝縮された言葉がラストマンのラストメッセージとして、心に響く書だ。 

勝見 明 ジャーナリスト

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かつみ あきら / Akira Katsumi

1952年神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。フリーのジャーナリストとして、小売からメーカーまで、企業の成功事例を数多く取材。経済・経営分野で執筆・講演活動を続ける。専門はイノベーションを生む組織行動、リーダーシップ論。主な著作に『共感経営』(共著、日本経済新聞出版)、『新装版 鈴木敏文の統計心理学』(プレジデント社)などがある。

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