凡人経営者と「名経営者」とのあまりに決定的な差 日立を救った「川村隆」は何がすごかったのか
3人のそれぞれの印象を喩えで表すと次のようになる。
仕事を「戦場での戦い」にたとえる古森さんは、威圧されるほど目力の強い風貌から古武士を思わせた。稲盛さんは、こちらが質問をするたびに、目を閉じて1~2分、沈思黙考してから語り始める。そのさまはさながら禅僧。実際、稲盛さんは65歳のとき、臨済宗の寺院で得度していた。
そして、川村さん。目を細めながら柔和な表情で懇々と語るその語り口に、学者と向かい合っているような印象を覚えた。川村さんは経済界でも無類の読書家で、東西の知に精通した教養人として知られた。その知性を感じ取ったからだろう。三人三様だが、もっとも人間的な距離感の近さを感じたのが、川村さんだった。
名経営者が仙人の境地に至った
2020年に東京電力HD社外取締役会長を退任し、81歳ですべての肩書から解放された川村さんが今年6月、上梓したのが『一俗六仙』だ。1週間7日間のうち、俗世的仕事との関わりは1日程度にとどめ、あとの6日間は仙人のように、自分の本当にやりたいことをやる。
読書を主とし、睡眠、入浴、散歩、小唄、三味線、スキー、ゴルフ、そして、学問の最先端調べなど。「晴耕雨読的」「林住期的暮らし」をしたいという願望を表した自身の造語が本のタイトルになった。
林住(りんじゅう)期とは、人の生涯を4つの段階に分けるヒンズー教における人生観の3段階目にあたる。知的修練を行う学生(がくしょう)期、結婚し、子をつくり、家族を養いながら働く家住(かじゅう)期を経て、妻とともに森林に住み、静かに思索、瞑想し、清浄な生活を営むのが林住期だ。林住期を終えると、聖地を巡礼するなど解脱の境地に入る遊行(ゆぎょう)期に至る。
本書は林住期に入り、経済界の重鎮から「無職」となり、仙人の境地に至った川村さんが、森のとある切り株に腰を下ろし、まわりに集(すだ)く後進たちに仕事論や人生論を語りかける、そんな趣のエッセー集だ。
例えば、「仕事と人生、どちらが大事か」と題した一文。川村さんは、まず、古代中国の思想家、荘子の説を引く。
「(仕事の)本質は合理主義に立脚して、できるだけ無駄を省いていく中で社会への付加価値を作り出すものである。一方、人生とは無駄もしながら、無駄の中に意義を見つけていくものだ」
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