凡人経営者と「名経営者」とのあまりに決定的な差 日立を救った「川村隆」は何がすごかったのか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そのとき、たまたま乗り合わせていた非番のパイロットがコックピットに突入して、犯人を取り押さえ、操縦桿を奪い返した。そのパイロットも、機長同様、命を落とす危険もあった。それでも、「自分しかない」と責任を一身に背負い、517人の命を救った。傑出したラストマンだった。

この事件から10年を経て、川村さんはラストマンとして、同じように重い責任を追うことになる。

本体に呼び戻されて、再建を託されたとき、川村さんには取るべき施策がある程度見えていた。急速に業績を回復させるため、「集中する事業」と「遠ざける事業」(撤退や縮小の対象にする事業)を選別する。M&A(合併・買収)で事業を補強するには資金の余裕がない。そこで、上場グループ企業を完全子会社化して取り込み、本体を増強する。

日立の新たなアイデンティティー

社長職とグループ全体を統括する会長職を兼務すると、川村さんが最初に注力したのは、すべての社員の気持ちをそろえることだった。それには自分たちのアイデンティティーを明確に打ち出す必要があった。

日立は創業者小平浪平が国産電気機械の量産を目指し、5馬力電動機を製作したところから出発した。創業の原点は社会インフラの事業や技術にあり、日立の事業の基本は電力や鉄道や水事業などの社会インフラにある。

そこで、ITにより高度化された社会インフラを実現することを「社会イノベーション」と呼び、「総合電機」から「世界有数の社会イノベーション企業」になることを日立の新たなアイデンティティーとして掲げた。

なぜ、アイデンティティーを重視したのか。筆者が2011年に川村さん(当時は社長職を中西宏明氏に譲り会長職)に取材した際、こう答えた

「再生には財政再建も急務であり、赤字を出していた自動車機器事業やデジタル家電事業を分社化するなど、構造改革の方針を決めていました。ただ、財政を再建するだけでは、社員たちは日立がどこへ向かっているのかわかりません。実際、若手社員たちから届くメールは、現状への失望や諦めが読み取れました。

自分は何のために仕事をするのか。必要なのは未来の道筋を示すことでした。自分の仕事は社会イノベーションにつながり、下支えしている。その意識を共有し、コンセンサスを取ることが何より大切だと私は思ったのです」

次ページラストマンとしての責任
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事