「警視総監まで決裁」警視庁Twitter開設の裏話 「初代中の人」が明かす今だから言えること

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犯罪抑止対策本部で私の上司にあたるのは警視である管理官、同じく警視ではあるものの理事官職(所属長級)にある犯罪抑止対策官、そして警察庁でキャリア採用された参事官級である警視長の副本部長、所属長は副総監です。警視(理事官)まではノンキャリアのたたき上げ、警視長(参事官)以上がキャリア官僚になります。その上が警視監、警視総監と続きます。

先ほど述べた「予想が当たった階級」は、ノンキャリア組までです。警察学校でたたき込まれた「しゃべるな、情報を出すな」という意識が思考の中に深く根を張り巡らせています。そこに「積極的に情報を出していきましょう」「民間のサービスを使いましょう」という提案が投げ込まれたら、まず出てくるのは拒絶です。

積極的に情報を出したがらないことに対しては、非公開情報を出そうというものではない、すでに発生してしまった被害情報や、それらの被害を回避するために必要な知識や行動についての情報を公にすることに害はないと説明することで、ある程度納得してもらえました。納得というより反論する材料がなかったのだと思います。

民間のサービスを使うことに対する拒絶は、インターネットがそもそも民間で敷かれた通信網で、警察でも公式ホームページを開設して公開している事実があることから、ツイッターだけ使わない理由にはならないと説明しました。これも納得はしてもらえませんでしたが、有効な反論も返ってきませんでした。

提案をつぶすための常套手段“何かあったらどうする”

それでも、やはり「情報を出すことは悪である」という考えは譲れないらしく、提案をつぶすための常套手段を持ち出されました。

「何かあったらどうする」

この「何かあったらどうする」というのは、具体的なリスクを特定できないけれども、その提案はつぶしたい、やりたくないときによく使われます。「何か」という漠然としたリスクなので提案側も反論しようがなく、引き下がらざるをえなくなります。

これに対して私は次のように説明しました。

「確かにツイッターを使い始めれば批判や苦情は寄せられると思います。ですが、たとえツイッターを使わなくても警察に対する悪意や嫌悪といった感情は持たれています。陰で悪口も言われています。それがツイッターというメディアに乗って私たちの目に見えるようになるだけです。悪意の総量が増えるわけではないのです」

われながらうまいことを言ったと思いました。この考え方は、今でも変わっていません。ツイッターのフォロワーは、全員が味方ではありません。運営が失敗をやらかしたら足をすくってやろうと待ち構えている人もいるはずです。

「そうかもしれないが、実際に苦情がきたら対応しなきゃならないだろう。誰が対応するんだ。何かあったらどうするんだ」

何かあったらどうするんだと詰められるとこちらもきついです。何かあると証明することはできませんが、逆に何もないと証明することもできません。何かあることの不証明より何もないことの不証明のほうが、やはり分が悪いです。

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