「警視総監まで決裁」警視庁Twitter開設の裏話 「初代中の人」が明かす今だから言えること
「何かあったら私が責任を取ります」
「お前なんかに責任が取れるわけないだろう。誰が責任を取ると思ってるんだ」。ここまでくるともう議論ではありません。
「わかりました。とにかく参事官に諮らせてください。それでダメだったら従います」。議論で決着がつかないだろうと思った私は、そのレベルでの意思決定を飛ばすことに可能性を賭けました。「どうせ無駄だぞ」。上司も半ばやけくそです。
参事官が笑顔で私を迎え入れ応接セットに向かい合わせで腰を下ろしました。
振り込め詐欺の被害防止広報にツイッターを使いたい理由を一気にまくし立てました。
肩すかしを食らった「いいんじゃない」
「いいんじゃない」。手元の資料から顔を上げた参事官は、いとも簡単なことのように言ってのけました。何かあったらどうするのかという不毛な議論が繰り返されるかもしれないと思っていた私は肩すかしを食らったように感じ、一瞬、言葉に詰まりました。
「これからの時代にマッチしているし、無料ですから使わない手はないです」。なんと言おうか迷っている私に参事官が続けて声を掛けてくれました。
参事官室を出るとすぐさま理事官に結果を報告しました。理事官は、まさか参事官が承認するとは思っていなかったのか、少し驚いたような顔をしていました。
理事官に報告を終えて自席に戻った私はあることに気づきました。
「警視総監まで決裁が必要」
参事官に言われたことを思い出したのです。警視庁で警察官をやっていて警視総監の決裁を経験することは、ほとんどないと断言できます。
当時、私は警部でしたので副総監までは決裁に入ることができました。しかし、その先、つまり警視総監の決裁は上司である管理官にお願いすることになります。私もそのつもりで決裁文書を起案しました。ツイッターを運用するにあたり外向けに公表するポリシーの案も作りました。
「あ、そうなんだ。いいね」
副総監は、あっさりと決裁書類に判を押してくれました。本当に私の話を聞いてくれたのか? と疑問に思うくらい即決でした。後になって気づいたのですが、話を聞いていなかったのではなく、おそろしく理解が早くて私の説明が終わるときにはすべて了解してしまっていたのです。
副総監の決裁が済んだことを参事官に報告しました。すると参事官から、「総監室には私も入ります。ツイッターのことは中村さんが詳しいと思うので一緒に入ってください」と言われました。
参事官、管理官に続いて警視総監室に入ります。
参事官がおおまかな趣旨を説明した後、私にお鉢が回ってきました。警視総監は雲の上の存在で、その人と直接会話をする機会が訪れようとは思ってもいませんでした。緊張で口の中が乾いて仕方ありません。資料に基づいて説明したはずですが、何をしゃべったのかよく覚えていません。
それでも目の前で警視総監が書類に押印してくれたことは、はっきりと覚えています。業務上作成した公文書なので、しかるべき保存をしなければならないのは当然ですが、記念にもらって帰りたいくらいでした。
こうして警視庁初のツイッターアカウント開設が決まりました。
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