不妊治療の保険適用という吉報に不安も見える訳 新ガイドラインに沿うなら「適用外」の扱いが難題

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新たに定められた「生殖医療ガイドライン」は不妊治療の現場をどう変えるのか(写真:pearlinheart/PIXTA)

政府が重要政策の1つに掲げる「不妊治療の保険適用」が、一歩進んだ。日本生殖医学会が6月23日、保険適用の道しるべとなる「生殖医療ガイドライン」を公表したのだ。政府は来年4月からの保険適用を目指している。

長い間、自由診療のもと医療機関の裁量で行われていた不妊治療。エビデンスに基づく一定の指針が示されたことに、保険適用を求める治療経験者からは、「非常に心強い」「お守りができた感じ」と喜びの声が上がる。

「これまでは標準治療がなく、医師の言うままに治療を受けるしかなかった。何の指針もなかった不妊治療に治療ガイドラインできたことで、まずは一歩進んだという印象。一方で、このガイドラインが臨床の現場でどの程度効力を発揮するかわからない。治療を受けている当事者のためになるような使われ方をしてほしい」(昨年まで治療を受けていた30代女性)

国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障・人口問題基本調査(2015)」によると、不妊の心配をしたことのある夫婦は3組に1組を超え、実際に検査や治療を受けたことがあるのは5組に1組にのぼる。子どものいない夫婦に限ると、なんと2組に1組は不妊の心配をしているという。

保険適用で治療のハードルが下がる

「保険適用になることでさまざまな面から治療のハードルが下がり、こうした夫婦が不妊治療を受けられるようになる」と、不妊治療に関する情報サイトを運営するジネコの長友博一さんは言う。

政府が示した工程表によれば、今後は厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)が保険診療に向けた議論を交わし、年明けまでに保険適用を決定する。今回、学会が発表したガイドラインは、保険診療に向けた「学術的な裏付け」(「生殖医療ガイドラインの編纂にあたって」より)となるという。

今回のガイドラインには期待の声がある一方、「これはどうなのか」と疑問を持つ人も。その1人が長友さんだ。気になる点は、ガイドライン作成委員の多くが大学病院の産婦人科医、泌尿器科医である点だという。

「日本には600を超える不妊治療施設がありますが、実際のところ、治療の多くが大学病院など一般病院ではなく、不妊治療を専門とるプライベートクリニックと呼ばれている施設で行われています。こうした施設の医師の意見がどこまで反映されているのかが、気になります」

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