仕事のできない人は「人間洞察」の本質を知らない 楠木建×山口周「首尾一貫した人間なんていない」

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楠木:若い世代がすごく「おっさん攻撃」をするじゃないですか。その気持ちはよくわかるんですよ。劣化したおっさんが身の回りにいっぱいいる。ただ、前にも話しましたが、年齢が若かったとしても、自制がなくて、今ある出来合いの価値基準にやすやすと乗っちゃうような人は、若くても「おっさん化」しているわけですよね。

山口:そうですね。システムに無批判に最適化しようとする、世の中から与えられたモノサシを疑わずに駆け登ることに血道をあげる、というのがおっさんの基本行動ですから、年齢にかかわらず、例えば就職偏差値の高い企業をひたすら目指して就職活動している一流大学の学生なんかは「おっさん」に分類されることになりますね。

楠木:だから例えば、自分の小ささということで言うと、ポイントは一般に「謙虚」といわれていることとはちょっと違うんですよ。「政治的な屈辱は安い。政治的屈辱をやりすごせるヤツが強いんだ」みたいな話をロシアのプーチン大統領がしていて。

「屈辱に耐える」とは損得勘定

山口:なるほど、「屈辱に耐える」というのは謙虚さとか美徳の問題ではなく、損得勘定なんだということですね。

楠木:政治的な屈辱を受け入れないというのは結果的にコストが高くつくんですね。日本の戦時の戦争指導者は、その屈辱に耐えられなかった。それが結果的にひどいことになったわけで。政治家に限らず、大人にはうまくいかないことがいっぱいあるんだけれども、それをニヤリと笑って受け止める。誰が言っていたのかは忘れましたが、いちばんいけないのは「他人の力を借りて雪辱を果たそうすること」。

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山口:確かに、かつてのドイツもそうでしたね。ナチスというのはベルサイユ条約で連合国から与えられた屈辱を発射台にして議席の過半数を獲ってますからね。屈辱をバネにしてこれを果たそうとするとロクでもない結果しか待っていないと。

楠木:そうですね。それとか外交的に他国の力を借りて雪辱しようとするとか。

山口:屈辱に耐えているという人がいて、それが美徳や謙虚さの故なのか、損得勘定の故なのかは、なかなか外から見ていてわからないということですね。例えば岩崎弥太郎なんかは土佐藩時代には上士の武士から人間扱いされていませんが、これに必死に耐えて……というか、とくに雪辱を果たそうとすることもなく、そのまま立身出世していますね。

一方で忠臣蔵の浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)なんかは、まさに雪辱を果たそうとしてお家断絶になっている。プライドと言えばプライドなんですが、これは「自分が小さい」というのと真逆ですよね。プーチンがそういうことを言っているというのは、すごい人間洞察力だな。

楠木 建 一橋ビジネススクール特任教授

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くすのき けん / Ken Kusunoki

1964年東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。2023年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)のほか、近著に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)などがある。

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山口 周 独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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やまぐち しゅう / Shu Yamaguchi

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事。中川政七商店社外取締役。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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