「チバニアン」めぐる国際レース参加の意外な経緯 申請チームリーダーが6年半の競争に挑むまで

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測定の結果、TNTTの年代は約77万2000年前と求められた。この翌年の7月、菅沼さんが代表してこの結果を国際学会の会議で発表した。その会議の議長は、今はチバニアンとよばれることになった中期更新世の時代のGSSP(国際境界模式層断面とポイント)を決める国際委員会の委員長、マーチン・ヘッド教授だった。

そして、地磁気逆転の年代がわかったという発表をしただけのつもりだった僕らにとって、議長からびっくりするような提案がなされた。それは「君たちが中心となってチームをつくり、千葉セクションを調査し、2年後の2015年夏までにGSSP提案書を提出しなさい」というものだった。

つまりそれは、千葉セクションが77万年前の地球で起こったことの痕跡を世界で一番よく残していることを、あと2年の間に世界に示さなければならないということを意味した。

最終的に6年半にわたった国際レース

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そのころ僕は、千葉県市原市田淵地区にある千葉セクションがGSSP候補になっているという話はきいたことがあったが、具体的な話はよく知らず、情報を集めた。その結果、どうやら日本のGSSP提案の準備が進んでいないため、審査開始が遅れていることがわかった。

そして準備が進んでいない原因は、千葉セクションに関する研究成果がほとんど国際論文として発表されていなかったことにあるらしかった。中期更新世GSSPの候補には、千葉セクションのほかに、イタリアの2カ所が名のりを上げていた。そしてこのときイタリアの2カ所とも準備完了。日本は待ったなしの状況だった。

この状況について、僕は少なからず責任を感じていた。修士課程の後も、僕が千葉セクションのある上総層群で松山─ブルン境界の研究を続けていたら……、もっときちんとした論文を書いていたら……。

その年の8月、僕は千葉セクションGSSP提案チームの代表を大阪市立大学名誉教授の熊井久雄先生から引きつぎ、6年半にわたる国際レースの幕が切って落とされた。

岡田 誠 茨城大学教授

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Makoto Okada

1987年静岡大学理学部卒業。92年東京大学理学系研究科博士課程修了。93年茨城大学理学部助手、2001年同助教授などを経て15年より現職。専門は古地磁気学、古海洋学、野外地質学。堆積物を用いた古地磁気、古海洋学的研究を通して過去の地磁気逆転や気候変動を解明する研究を行う。千葉セクションGSSP提案チームの代表をつとめた。

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