「チバニアン」めぐる国際レース参加の意外な経緯 申請チームリーダーが6年半の競争に挑むまで
そのころの彼の研究テーマは、最後に地磁気が逆転した松山―ブルン逆転境界の年代が本当は何年前かを明らかにすることだった。松山―ブルン逆転境界の年代は、78万年前というのが国際的に用いられていた「公式」年代だった。
しかし彼の主張は、それより1万年ほど若い、77万年前であるというものだった。そして、そのときの彼の相談は「松山─ブルン逆転境界の年代を明らかにしたい。年代を直接測定するために火山灰が必要なのですが、逆転境界の近くにある火山灰はどこかにないですか」というものだった。
僕にとって、逆転境界近くの火山灰といったら、TNTT(発見者4人「富田・新妻・平・玉生」のイニシャルが由来)だ。じつに身近なことをきかれたことになる。しかも幕張から車で1時間ちょっと。すぐ近くにあるのだ。だから「それなら近くにあるよ」と即答した。
しかし年代測定のためには、ジルコンという鉱物をたくさん火山灰から集めなければならない。TNTTは白く細かい火山ガラスがほとんどで、わずかに黒い鉱物がふくまれた火山灰だ。だがTNTTにジルコンが入っているかどうかについては知られていなかった。それで日程をあわせ、その翌週、一番ぶ厚くTNTTが見られる千葉県市原市柳川地区へサンプルをとりにいくことにした。
24年ぶりに訪問した場所でサンプル収集
最後に柳川地区に行ったのは、僕が静岡大学で修士課程の2年生のとき。じつに24年ぶりの訪問だった。「近くにあるよ」とうけあったのだが、記憶は薄れており、本当に場所がそこでよいのかちょっと心配だった。修士のころつくった調査用のマップを掘りおこし、昔の記憶をたよりに現地に向かうと、なんと当時の僕が測量のために使った水糸が、そのまま24年間も残されていた。
これで場所が正しいことはわかったが、ゴミもかたづけずに放置してしまったことをはずかしく思った。そして沢の底に積もった枯れ葉をどけると、TNTTが白くくっきりと浮かびあがってきた。
現地でTNTTの火山灰をサンプル袋が一杯になるほどとり、菅沼さんが勤める国立極地研究所で調べることになった。国立極地研究所には、ジルコン粒子を1粒ずつ年代測定することができる最先端の機器がある。この機器で年代を測定するのだ。
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