資本主義で利益より「パーパス」が重視される理由 「株式会社規範のコペルニクス的転回」の教え
2010年代後半、株主至上主義への懐疑
2010年代後半に入って、企業の目的(パーパス)を巡る論議が熱を帯び始めた。
利潤追求を最優先する企業活動をこれまで社会が容認してきたために、環境の破壊、森林や水産資源の枯渇、貧富の格差の拡大が進み、また、児童就業など人権を脅かす状況が続いているという問題意識が共有され、企業の目的を利潤追求ではなく、社会的価値の実現に求める主張が強まった。
例えば、2019年8月にアメリカ主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、企業の目的として、株主至上主義を見直し、従業員など他のステークホルダーを重視すべきだとの考え方を打ち出し注目を集めた。
さらに注目すべきは、金銭的リターンの最大化を行動原理とするアメリカの機関投資家が、自ら株主至上主義の再検討を提議したことであろう。
例えば、ブラックロックの会長兼CEOラリー・フィンクは、2018年8月、投資先企業への書簡において、長期的な発展のために、財務パフォーマンスだけでなく社会的な価値を生み出すことを求め、企業の目的は利潤を最大化することだという従来の考えに疑問を投げかけた。
また、前後して、世界経済フォーラム、欧州委員会でも、企業の目的、取締役の役割と持続可能な企業統治に関する議論が進展した。さらに2020年2月以降のCOVID-19の拡大は、企業の金銭的価値を超えた目的に対する社会の関心をいっそう高めることとなった。
企業は、従業員の健康、顧客の安全、サプライチェーンの安定などへの配慮を強める一方、脱炭素を中心に環境への取組みを積極化した。年金基金はESG投資への選好を強め、世界の運用資産に占めるESG投資の比重が急速に上昇している。
こうした企業の目的に対する関心の高まりは、アカデミズムにおける多様な資本主義、株主至上主義対ステークホルダー論の論争の帰趨ともオーバーラップしている。1990年代には、競合する資本主義のモデルが脚光を浴びたアカデミズムでは、2000年代に入ると大きく潮目が変わり、英米型の株主主権の企業システムが他の競合者をほとんど許さないモデルと理解されることとなった。
各国の株主主権システムへの収斂が予想され、また、それが政策的にも推奨されることとなった。こうした動きと並行して、実証的にも、少数株主保護の効果、海外機関投資家のガバナンス改善機能、アクティビスト・ファンドのポジティブな役割の解明が進んだ。
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