Netflix「大坂なおみ」を今見ないと損するワケ

20歳からの2年間に密着したドキュメンタリー

冒頭から「たまに自分は器だと感じる……なぜなら」と、自分語りが始まります。まるでそれは心の声を聞かせているようで、彼女のパブリックイメージをいったん真っさらにして見始めようかという気にさせます。おそらくそれが正しい見方です。自分というものを確立していくひとりの女性の自分探しの旅の目撃者気分がこの作品の向き合い方としてちょうどいいからです。

大坂なおみとはいったい何者か。彼女自身が自問自答するモノローグのスタイルで送る(写真:Netflix)

全3部構成で組み立てられ、第1パートは「成功」というタイトルのもと、20歳でテニス界の頂点に立った彼女の気持ちに寄り添っていきます。記憶の引き出しから引っ張り出していくような感覚で、幼少期に記録された家庭用ビデオ映像も使われながら、3歳の頃から1日中、姉の“まり”とともにテニスの練習に明け暮れた日々も振り返り、自分の足跡を確かめているかのようです。

続く第2パートの「覇者の精神」ではコートの外にも目を向け、多面性を受け入れ始めている彼女の姿が印象的です。2020年のニューヨーク・ファッション・ウィークではデザイナーとしても才能を発揮し、ファッションアイコンとして注目されていきます。また親友である元NBAのコービー・ブライアントの早すぎる死に直面しながら、自身のテニス人生の意味を見つめ直していくのです。

日本人の母親とハイチ人の父親

この時点で生き方の方向性が見えてきたんじゃないかと思わせたところで、最後のパートである「新たな地図」に突入していきます。まず語られたのはルーツを探るうえで欠かせない両親について。日本人の母親とハイチ人の父親のもとに日本で生まれ、アメリカで育った大坂なおみのアイデンティティーを多少なりとも理解できそうです。娘の成長と成功を間近で見守ってきた両親がカメラの前で語る場面もあります。

日本人の母親(写真)とハイチ人の父親のもとに日本で生まれ、アメリカで育った大坂なおみのアイデンティティーに迫る(写真:Netflix)

このアイデンティティーを確かめる作業があるからこそ、2020年5月にアメリカ・ミネソタ州のジョージ・フロイドさん死亡事故に端を発した人種差別抗議運動「ブラック・ライブズ・マター」に彼女が参加したことは必然的だったと思うわけです。そして、同年9月の全米オープンで黒人差別に抗議する黒いマスク姿で登場した彼女の意思を感じ取れます。自分の頭で考え、動き出し、誇りを持ち始めた大坂なおみが映し出されているのです。

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