Netflix「大坂なおみ」を今見ないと損するワケ 20歳からの2年間に密着したドキュメンタリー

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ドキュメンタリー『大坂なおみ』はある意味、受け止め方を視聴者に委ねています。感動ポイントや山場が示されるわけでもなく、アート系映画のようなわかりにくさがありますが、それは監督のスタイルとも言えるもの。

2020年の全米オープンで黒いマスク姿で登場し、コートに社会意識を持ち込んだ大坂なおみの心境が明かされる(写真:Netflix)

監督、製作総指揮を務めたのはアフリカ系アメリカ人女性のギャレット・ブラッドリー。第93回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネートした『タイム(原題:TIME)』を製作・監督した実績を持つ人物です。

『タイム』では6人の子の母親フォックスさんの目線から、アメリカの差別的な刑事司法を訴えかけていき、やはりこの作品も客観的な説明はいっさい入りません。ちなみにAmazon Prime Videoで独占配信されていますから、日本でも視聴可能です。闘う女性の生き様を追うことに長けた監督であることがわかると思います。

監督は大坂なおみのことを「知らなかった」

ただし、その伝え方は淡々と。『大坂なおみ』の製作を振り返り、Netflixの公式インタビューに答えたブラッドリー監督の言葉からもそれが伝わってきます。

「私にとって重要だったのは、可能な限りオープンな姿勢でこのプロジェクトに挑むことでした。彼女がどんな人なのかはもちろん、このシリーズがどんなものになるのかについても、具体的なイメージを持たないようにしようと考えていました」

撮影に入る前までブラッドリー監督は大坂なおみのことを「知らなかった」とも明かしています。そのうえで「彼女の人生に立ち会うことを最大の目的」とし、透明性を持った次世代のスポーツ選手のあるべき姿を反映させているのです。

東京五輪を巡って彼女の動向が注目された今のタイミングに見届けるのもよし。じっくり自身の人生を見つめ直したいときにみるのもオススメです。

「作品を見た方たちに共感の持つ力を感じてもらって、人生の中でチャンスをつかむための後押しができたらいいと思っています。とくに今、何かに挑戦することがとても難しく感じられる、この時代に」

と、語るブラッドリー監督の狙いどおりの作品です。スポーツドキュメンタリーという枠を超えて、人間の本質と生き方を捉えたものが今の世の中に求められていることを証明しています。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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