閖上から先、どう進むかが思案のしどころだった。北側を流れる名取川の向こうは、もう仙台市若林区。「なとりん号」も仙台市バスも、市境は越えない。行政にとって市境は国境にも等しい。大きな需要への対応に迫られない限り、越境する公営バス路線は設定されないものだ。
閖上にいちばん近い仙台市バスのバス停は中野。スマートフォンを駆使してルート検索すると徒歩30分ほどだ。汗だくになって急ぎ、なんとか9時28分発のK500系統交通局前行きに間に合わせた。路線図を眺めて、できるだけ海に近いルートをたどる約束だが、やはりバス路線は仙台市中心部から放射状に延びるものばかり。わずか7分で着いた六郷小学校前で降り、10時16分発の512系統長屋敷経由荒井駅行きに乗り継ぐ。
海岸から5kmは離れており、穀倉地帯の中の集落との印象の藤田バス停の側に、津波の浸水域を表す標識を見かけ、認識不足を再び思わされる。何度、被災地へ取材に来ても感じることだ。すぐ近くを通っている仙台東部道路の盛土が防潮堤代わりとなって津波を食い止めたそうである。しかし、見渡す限りの平坦地。対策がないまま津波が来ていれば、どれだけ被害が大きくなったことか。伊達政宗は、度重なる津波を受けていた海岸部を避け、高台を選んで仙台城と仙台の町を築いている。
荒井駅のバス案内は完璧だけど
いかにもニュータウンの駅といった荒井に10時43分着。2015年に開業したばかりで、同じ仙台市交通局なので、ここには地下鉄東西線の案内はもちろん、路線バスの時刻表、発車案内も完備していた。仙台市バスだけではなく、運転本数は少ないものの、ミヤコーバスの時刻表も掲示されている。これを「珍しい」と言わねばならないのが、残念ながら実情である。
MaaS時代ながら、組織の壁を越えた情報提供は、まだまだ不十分だ。全国を旅していて、遺憾ながら鉄道側がバスに無関心な例をよく見る。そう言えば、JR名取駅改札口近くには「なとりん号」の案内が貼ってあったが、場所は名取市が管轄する東西自由通路だった。
その発車案内に助けられて、海岸近くを一巡してからJR仙石線の陸前高砂駅へ向かう、1日3本だけのT18系統が11時29分に出ることがわかった。しかし、バス停名からして見逃すわけにいかない「震災遺構仙台市立荒浜小学校前」へ行く20系統には乗れなくなる。ここは順番を入れ替えて、翌6月12日の土曜日、もう一度、荒井駅から往復した。
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