細田守がネット世界を「肯定」し続ける端的な理由 「竜とそばかすの姫」仮想世界で描く自由と恐怖

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仮想空間<U(ユー)>には世界の50億人が登録する。この空間をデザインしたのは、英国人の建築家エリック・ウォン氏。制作時は20代後半だった(画像:(C)2021 スタジオ地図)

――ネットのネガティブな側面が、社会問題化しました。

もちろん、10年、20年前も匿名掲示板での誹謗中傷は問題になってはいたけど、あくまで“ネットの片隅”で起こっていることだった。それが今や、メインストリームになっている。

言い換えれば、それくらい現実とネットが限りなく近づいている世界に僕らはいる。こうした状況下で、僕らの人生は、世界は、モノの価値はどう変化するのか? 本作は、それをテーマとして描いています。

『美女と野獣』とネット世界の構造の親和性

――現実の主人公のさえない生活と並行して、仮想世界では主人公のアバターで美しい歌手の「ベル」と嫌われ者の「竜」との間で、『美女と野獣』をモチーフとしたストーリーが展開されます。

僕はもともと『美女と野獣』が好きなのだが、中でも思い入れがあるのは野獣の二重性。荒々しい獣の裏側に、別の人間が隠れている。この人格描写は、ネットを使うわれわれの二重性に見事にリンクする。

というのも、インスタグラムで投稿したり、ツイッターで発言する自分と本当の自分との間には、皆さん多かれ少なかれ乖離がありますよね。それを自覚しながらSNSをやっている。

いくつもの自分を持って活動するのがネットの特性だとしたら、そこから生まれるのが、作品中でも度々セリフとして登場する「本当のあなたは誰?」という問いだ。(野獣の呪いが解けて元の人間に戻る)『美女と野獣』のストーリーは、ネットの構造と実に親和性が高いといえる。

――ただ、匿名でSNSを使っている人にとって、「本当の自分」が明らかにされることほど恐ろしいことはありません。

まさにそうなんですよね。最も怖いのは、(正体が)バレること。とりわけ、「架空の自分と本当の自分のギャップ部分」を知られることは、人によっては裸を見られるよりも嫌なことかもしれない。

つまり、匿名性のもとで保証されている一種の自由は、同時に「バレたら怖い」という理由で制限されてもいる。

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