ネット炎上「少数の意見」が社会の声に見える訳 一部の「極端な人」が何度も執拗に書き込む
ネットの普及は、誰でもオープンな場で情報発信することを可能とし、1億総メディア時代をもたらした。今では誰もがSNSでコミュニケーションをしている時代だ。私が以前Googleと実施した研究では、ネット上のクチコミには年間1.5兆円の消費押し上げ効果があることがわかった。1億総メディア時代は経済・ビジネスのあり方も大きく変えてきている。
しかしそれに伴い、「ネット炎上」という現象が頻発するようになった。ネット炎上とは、ある人や企業の行為・発言・書き込みに対して、ネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることを指す。デジタル・クライシス総合研究所の調査では、2020年の炎上発生件数は、年間およそ1400件だったようだ。1年は365日しかないので、1日当たり3回以上、どこかで誰かが燃えているのが現実といえる。
「現役の炎上参加者」はネットユーザの0.5%
炎上は企業の株価にも影響を与える。慶應義塾大学教授の田中辰雄氏の研究によると、炎上の平均的な株価への影響は、マイナス0.7%であった。0.7%というと大きくなさそうであるが、航空機事故や化学爆発による株価の下落幅と同程度である。さらに大規模な炎上に限ると、5%程度の下落が見られたという。
炎上の影響はそれだけではない。ネット上で大量の誹謗中傷を浴びせかけられ、亡くなってしまった著名人は世界中に存在する。日本でも、2020年だけでそのような事件が複数回発生した。一般人が炎上することもあり、進学・結婚が取り消しになった人もいる。
拙著『正義を振りかざす「極端な人」の正体』は、炎上に参加する人たちの実態に、豊富な統計データ分析と事例分析で迫っている本である。
ひとたび炎上が起こると、社会全体がその人や企業を攻撃しているように見える。SNSは誹謗中傷であふれ、攻撃されている側からすると、まるで世界中が敵になったように見えていることだろう。
しかし、2014年に約2万人を対象としたアンケート調査データを分析した筆者らの研究の結果は、驚くべき炎上の実態を示した。なんと、過去1年以内に1度でも炎上に書き込んだことのある人―つまり「現役の炎上参加者」―は、ネットユーザーのわずか0.5%(200人に1人)しかいないことがわかったのである。
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