3年かけ発掘「地味すぎる沈没船」調査の舞台裏 400年前に沈んだ船の痕跡をやっと見つけた

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水中考古学をご存じでしょうか? アドリア海で行われた調査の様子をお届けします(写真:yazawa /PIXTA)
ユネスコの試算によると、世界の海には300万隻の船が沈没しているといいます。海底に眠る船体や積み荷を発掘し、過去の人々の生活をひも解く――それが、水中考古学です。山舩晃太郎氏(37)はアメリカで博士号を取り、専門家として世界の海でフィールドワークをおこなっています。発掘現場の驚きと発見を描いた山舩氏の初著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』から一部抜粋・再編集して2回にわたりお届けします。
大小さまざまな島が点在するアドリア海で約400年前に沈没した「グナリッチ沈没船」の50年ぶりの水中発掘の調査に入った山舩氏(1回目:『沈没船博士挑む400年前の船ハラハラの発掘調査』)。水中考古学の世界的権威、フィリップ・カストロ教授らとともに、発掘の現場で、「キール(竜骨)」という船の背骨ともいえる重要部位を探しますが、なかなか見つけることができません。探し始めて3年目に突入した2014年の夏――。ついに、キール発見なるか‥‥?

行きづまる発掘現場

毎日掘れど探せど、全くキールに行き当たらない。

「何かがおかしい!」

実は、2013年の発掘シーズン半ばから、私は徐々にそう感じるようになっていた。2年も発掘しているにもかかわらず、肝心の「キール」がまったく見つからないのだ。実測図を基にしているのに、こんなに長期間見つけられないのは、正直、異常だ。船舶の構造史を専門としているカストロ教授も同じように感じていたようだった。

通常、船を安全に航行させるためには、船体の重心を低く取る。そうでないと、船体のバランスが取れないからだ。そのために重い荷物をより低い部分に積み、軽い荷物をその上に積んでいく。

グナリッチ沈没船に当てはめると、2013年の終盤には遺跡の南西側で全長1. 2m、直径70㎝程にもなる大樽が列をなした状況で発掘された。大樽は半分が朽ちており中身が何かわからないが、いずれにせよ全体で100㎏以上の重量になったはずである。

そのすぐ南でも長さ50㎝程度、直径40㎝程度の小樽が複数発見された。中身は白鉛のインゴット(地金)で、樽の重さは1つ当たり40㎏近くになっただろう。これだけの重量の物を積んでいるということは、ここが船底だと考えることに、特に違和感はない。

つまり、50年前の実測図に従い、南方に掘り進めれば、キールに突き当たる可能性は高い。

ただ、これまでの発掘で、腑に落ちない箇所がいくつかあった。

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