3年かけ発掘「地味すぎる沈没船」調査の舞台裏 400年前に沈んだ船の痕跡をやっと見つけた

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その日のダイビングは午前・午後の2回予定されていた。午前中ロドリゴはカストロ教授に示唆された穴を見つけ、発掘をはじめた。穴は50㎝以上あり、幅は30㎝×80㎝程だ。1回目のダイビングでは底まで掘ることはできなかったが、私達には確信があった。クロアチア人の2人もそわそわしている。

午前中のダイビングでドレッジが1つ北側に動かされたのを他のメンバーも気づき、なんとなく私たちがそこでキールを探していることはバレ始めた。そもそも最高機密というわけではなかったが、任された作業を放っぽりだして、相談もなくグループと作業内容を変更しているのだ。もしキールが見つからなかったら今回のプロジェクトリーダーであるイレーナ・ロッシ教授に怒られるだろう。

それでも私には自信があった。絶対に見つかる!

昼食を食べ、私とロドリゴは2番目のグループとして午後のダイビングを行った。水に飛び込んでしまったらもうロドリゴと言葉を交わすことはできない。大丈夫。必ずキールはこのダイビングで見つかるはずだ。それから20分後――。

ついに! 発見か!?

その時、私は大学院生達に水中発掘の仕方を教えていた。

そこにダイビングインストラクターの資格も持ち、普段はウミガメのように優雅に泳いでいるロドリゴが、「ウォーーーーーー ウォーーーーーー」と興奮した様子でジタバタ泳いできたのだ。

私は、大学院生達をほかのメンバーに預け、すぐさまロドリゴの後を追った。

いつもは透明度が約20mもある沈没船遺跡も、水中発掘が始まると水中ドレッジの吐き出し口から舞い上げられた土砂が流れ込み、遺跡周辺だけ5m程度に透明度も落ちる。霧のかかったような遺跡現場の中を6mほど北に進み、ロドリゴが掘ったばかりの穴を確認する。穴といっても見た目はフレームとフレームの間の30㎝×80㎝程の隙間だ。深さは50㎝は優に超えているだろう。

海底が薄暗く、穴の中を目視することができない。水中ライトで照らしてみても、穴の中は泥が舞っており、はっきりと確認できなかった。そこで腕を伸ばして入れてみる。

穴は深く、肘まですっぽりと入った。

『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「この先には、何がある?」緊張しながら、指先に神経を集中する。

すると、大きな木材の感触があった! 表面をさすってみる。それこそホームセンターで売っている木材のようにツルツルだ。これが420年前の木材だというのか……! 木材の上部の両角には外板をはめ込むための溝があった。このような溝を持った木材は西洋船の中ではキールしかない。これは間違いなくキールなのだ!

2012年に掘り始めて3年目、ようやく私達はこの船のキールを見つけることができたのである。蓋を開けてみれば、船の実際の向きと実測図は、全くのさかさまであった。まさか、50年前の実測図が間違っていただなんて……。1枚の紙に惑わされ続けた3年間が、ようやく終わった。ここからが、本当の研究のスタートである!

山舩 晃太郎 水中考古学者

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やまふね こうたろう / Kotaro Yamafune

1984年3月生まれ。2006年法政大学文学部卒業。テキサスA&M大学・大学院文化人類学科船舶考古学専攻(2012年修士、2016年博士号修得)船舶考古学博士。合同会社アパラティス代表社員。テキサスA&M大沈没船復元再構築研究室研究員。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築が専門。

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