3年かけ発掘「地味すぎる沈没船」調査の舞台裏 400年前に沈んだ船の痕跡をやっと見つけた

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「キールはどこにあるんだろう?」

ある日、ロドリゴが何気なく呟いた。

「もしかしたら、今、参考にしている50年前の実測図が間違っているんじゃないか?」

50年前の遺跡の写真や発掘の記述などを読み込んでいた私は、実測図を疑いつつも、一方で、「まさかそんな大きな間違いがあるはずないだろう」と確信が持てないでいた。

しかし、ロドリゴに言われて私は再び推理し始めた。積み荷の重さのバランスを考えると船底部は皆が発掘を進めている南方よりも、もっと北側にある可能性が大きい。留められていないシーリングプランキングの位置を考えると、かなり北端の近くと推察される。

問題は北端西部分にある、あの壁のような構造だ。50年前の実測図によれば、ここは「船首」となるはずだ。

くどいようだが、船は基本的に丸く平たい形状をしている。

しかし、実はその中で、1カ所だけ直立の壁のようになる箇所がある。船体の船尾側の船底部である。ここは水を効率よく船尾にある舵に流すため、ほぼ直立の構造をしているのだ。グナリッチ沈没船に当てはめて考えてみよう。もし、あの壁のような構造が、船首にほど近い右側側面ではなく、船底部最後尾だと考えたら……。実測図とはまるっきりさかさまになるが、きっちり船の構造として全体が成立する!

チャンスはあと2週間

「あーーーーっ!」すべてのつじつまが合ってくるのだ!!

私とロドリゴはこっそりカストロ教授を私たちのアパートのバルコニーに呼び出し、考察を伝えた。教授はすぐに一言、「間違いない」。

キールは分厚いフレームの真下に隠れていて、確認するのはとても困難な部位だ。しかしカストロ教授曰く、1カ所だけフレームの外れている箇所がある。そこを真下に50㎝程掘ることができればキールを見つけられるかもしれないということだった。逆に言えば、頑丈で強固な船底部のフレームを動かすことなくキールを見つけられるとしたら、その小さな穴しかないのだ。

あとはキールを遺跡で見つけるだけだ。気づけば発掘作業もあと3週間。しかし、最後の1週間は遺跡保護のため、次のシーズンまで遺跡全体に布をかぶせて、土嚢をのせ、土で埋め戻す作業を行わなければならない。つまりチャンスはあと2週間ほどしかなかった。

次ページ3年越しでやっとの発見
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事