3年かけ発掘「地味すぎる沈没船」調査の舞台裏 400年前に沈んだ船の痕跡をやっと見つけた
まず、2014年の発掘で、インゴットのさらに南側から円形の窓ガラスが大量に発掘されたのだ。本来ならば、キールに近づくにつれ、積み荷は重い物になるはずだ。それなのに、樽やインゴットよりも軽い積み荷が出てくるとは……。この時点で、「私達はキールを通り過ぎているのか?」との疑念がよぎった。
もう1つは2012年、このプロジェクトが始まる際に、まず最初に試掘をスタートさせた場所だ。
沈没船遺跡の最北端の西側のことなのだが、ここは発掘してみると、壁のように船体が垂直方向に伸びていた。50年前の実測図では、そこは船首にほど近い右側側面(右舷)にあたる。本来、船首付近の船体は丸みを帯び、まっすぐな部位など存在しないはずだ。
この箇所には、もう1つ、不自然な点があった。
船体の内側に貼られた板を「シーリングプランキング」という。実測図通り船首近くの右側側面ならば、この部位に貼られるシーリングプランキングは船体の内側から見れば、壁代わりになる。壁板ならば、当然、重力で落ちてこないように、しっかりとフレームに留められていなければならない。
資料を読み込むと糸口が
しかし、私たちはこの箇所から、フレームに留められていない1枚の板を見つけていた。このように留められていないシーリングプランキングは、船底部でよく見られる形だ。船底部ではフレームとフレームの間を掃除する際、排水時の水をスムーズに流すため、あえてフレームに留めないで簡単に取り外しできるようにしておくことがあるのだ。実測図と実際の船の構造が一致しない……。
だが「すでにキールを通り越してしまっているのでは」というのは私の推測に過ぎない。チームは50年前の実測図に従い、予定通り南方に向かい掘り進めていた。
プロジェクト開始から1カ月が経つ頃、学生の増員があり、調査チームの借りていたアパートが満室になった。そこでロドリゴと私、そしてサミーラだけが新たに近くに借りたアパートの一室に移動することになった。
ロドリゴと私は海から帰ってくると新しいアパートのバルコニーで、写真から3Dモデルを作成するフォトグラメトリという最新技術を使った発掘現場の記録作業をしながら、地元の市場で買った焼きたてのパンとアンチョビをワインと一緒にたらふく食べるようになった。
夕日のオレンジ色に染まったクロアチアの美しい海を見ながら、地元産のワインで乾杯する。至福の時間だ。しかし結局はいつも同じ話題に戻る。
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