沈没船博士挑む400年前の船ハラハラの発掘調査 海底に眠る船体を研究する「水中考古学」の世界

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水中考古学をご存じでしょうか? アドリア海で行われた調査の様子をお届けします(写真:Kazu23 /PIXTA)
ユネスコの試算によると、世界の海には300万隻の船が沈没しているといいます。海底に眠る船体や積み荷を発掘し、過去の人々の生活をひも解く――それが、水中考古学です。山舩晃太郎氏(37)はアメリカで博士号を取り、専門家として世界の海でフィールドワークを行っています。発掘現場の驚きと発見を描いた山舩氏の初著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』の一部を、抜粋・再編集して2回に分けてお届けします。
今回紹介するのは、大小さまざまな島が点在するアドリア海で約400年前に沈没した「グナリッチ沈没船」の水中発掘の調査の様子です。
実はこの船は50年前にすでに一度発掘調査が行われおり、クロアチアの考古学会ではかなり有名な沈没船だそう。当時の調査では、船体の大きさは少なくとも20m×8m程度とされ、シャンデリアやガラス製品など豪華絢爛な装飾品も含め、さまざまな積み荷が引き上げられました。その積み荷の構成から、この船が16世紀または17世紀のベネチア共和国からの積み荷を載せた船である、ということがわかっています。
山舩氏ら調査チームを待ち受けるのはいったい……?

現場に着いても、すぐには発掘できない

ついにこの日が来た! 水中調査当日の朝、軽い朝食を済ませたら、そのままリビングルームでミーティングが始まる。15人近くに膨れ上がったチームメンバーが3つのグループに分けられ、それぞれに作業が振り分けられた。ミーティング後、各グループで確認しながら作業に必要な機材を車に詰め込み、車で5分ほど離れた港に向かう。この時はチームメンバーの数が多かったため、地元のダイビングショップから2階建ての立派なダイビング専用船をチャーターした。

沈没船の地点までは、この船で1時間弱程。私達は船のエンジンが完全に停止したらすぐに潜れるように、船内でダイビング機材と作業に必要な道具を準備する。

ウェットスーツの上に空気タンクを装着したダイビング用のジャケットを着た。海外での水中考古学プロジェクトでは、18ℓの空気タンクを使うことが多い。今回も18ℓの空気タンクを使う。タンクは空の状態でも約22㎏、空気が満タンの状態で約27㎏になり、陸上では動くのがおっくうになるほどだ。しかし、一度水中に飛び込めば重さも感じなくなる。

風も穏やかで、波もない。船長から係留完了の合図が出ると、今回のプロジェクトリーダーであるイレーナ・ロッシ教授と水中考古学の世界的権威であるフィリップ・カストロ教授から作業内容の最終確認が行われ、その後、すぐに最初のグループの6人が水に飛び込んだ。

いよいよ、グナリッチ沈没船の50年ぶりの水中発掘が再開だ!

次ページいきなり調査には入れない!
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