沈没船博士挑む400年前の船ハラハラの発掘調査 海底に眠る船体を研究する「水中考古学」の世界
最初のグループの作業は、「グリッド(格子)」と呼ばれる水中作業時の足場となる鉄格子を海底に運ぶことだ。
沈没船の木材は何百年も水に浸かり、箇所によってはスポンジのように柔らかく、崩れやすくなっている。そのため作業ダイバーは発掘の最中はフィン(足ひれ)やそれが巻き起こす水流で木材を傷つけないように、フィンを脱いで作業しなければならない。よほどのダイビング上級者でない限り、フィンなしで逆立ち状態を保ちつつ発掘作業に100%集中することは難しい。そのため足場となるグリッドが必要なのである。
また、グリッドは組み立てると1つが2m×2mの正方形になる。海底遺跡上に番号をつけたグリッドをマス目状に張りめぐらせていき、その番号で作業ダイバーを振り分けたり、発掘された遺物がどこから発掘されたものか大まかに管理したりするのだ。
スコップなどで採掘はしない
第2グループは第1グループが潜った30分後に潜行をはじめ、水中発掘の道具、「ドレッジ」を組み立てる。これは、排水用のポンプを改造した機材で、ガソリンを燃料としたエンジンで稼働する。早い話が「水中掃除機」だ。水中考古学の世界では、海底を直接スコップなどで採掘することはしない。このドレッジを片手で持ち、海底の土砂を吸引して、発掘するのである。
第2グループのメンバーが、ドレッジ用の排水ポンプや、筒、吸い込み口となる蛇腹ホースなどの必要機材を海底に運んで、組み立てた。グリッドとドレッジ、この2つが用意できて、初めて水中での発掘作業のスタートラインに立てるのだ。
いよいよ私のいる第3グループが潜る番がきた。チームメンバーはカストロ教授を中心に、私を含め4人。私たちのグループのミッションは、教授の指示に従い、ドレッジを使い水中発掘をすることだ。
現場に出られる! 私はワクワクを抑えきれなかった。
しかし、潜り始めて水深が深くなるにつれ驚いた。
「冷たい!」クロアチアの夏は日本と同じぐらい暑く、水面付近の水温も小学校のプール程度で、7㎜のウェットスーツを着ている私はへっちゃらだった。
しかし水深8~10mを超えると一気に水温が落ち込む。摂氏15度ぐらいだ。まだ海底は見えない。下は暗く、初めて潜る底の見えない海はとても不気味で、不安を感じる。ようやく海底につき、教授と一緒に少し泳ぎ、第2グループが組み立てた水中ドレッジを見つけた。自分たちが試掘する場所にそれを運び、発掘作業を開始しなければならない。
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