なぜ「上司が命じる組織」は負け続けるのか 米海軍屈指の潜水艦長に聞く、最強組織の作り方(下)

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ダメな組織の3つの事例

――では逆に、リーダーシップがうまく機能していないと思われる事例はあるでしょうか?

 従来型の「命じるリーダーシップ」にとらわれて被害を被った例を3つ紹介しましょう。まず、IBMに起きたことを話しましょう。

 2013年の春、IBMが発表した四半期レポートの業績は思わしくありませんでした。大方のアナリストの予測を下回る収益しかあげられず、レポートを発表した日は株価が8%下落しました。IBMのジニー・ロメッティCEOは、全社員24万4000名に向けて短いビデオメッセージを送り、収益が目標に達しなかったことを伝えました。目標を達成できなかったのは、契約寸前だったいくつかの大口取引を土壇場で逃したからだ、と彼女は言います。

 その対策として、営業員(情報を持つ現場の社員)にさらなる積極的な営業活動を求めるとともに、「上司と密接に連絡を取って」潜在顧客への対応スピードを(24時間以内に)上げるようにと要請しました。
 
 これぞまさに、「情報を上にあげろ」という企業の典型的な対応です。いままでのやり方では遅れが生じると発覚したとき、より早く対応できるようにと、処理能力の高いコンピュータに変えたり、携帯電話の台数を増やしたり、業務ソフトを変えるといったことに手をつけたくなる企業は多いでしょう。ですがこうした対処法では、長期的な効果はほとんど期待できません。

 というのも、問題は、情報を上にあげるのが遅すぎるということではないからです。情報を上にあげること、それ自体が問題なのです。解決のカギは、「情報のあるところへ権限を下ろす」ことにあります。

 では、権限を下ろすとどうなるか? 仕事のスピードを上げろと部下を急き立てるのではなく、現場を知る営業員や経理担当者のところに経営陣が行って、それまで上司の確認が必要だった取引を、上司の確認なしでまとめるようにするには何が必要かと、部下に尋ねるようになるはずです。情報のあるところへ権限を下ろすようにすれば、指揮命令系統に従って情報を流すという考え方も排除できます。情報は、組織のあらゆるところに流れるようにする必要があるのです。

 次に、福島第一原発について考えてみましょう。東日本大震災のとき、福島第一原発は深刻なトラブルに見舞われました。これに対し、必要な対策をとる必要がありましたが、東電の本社は福島から遠く離れた東京にあり、現場と本社との間に深刻な情報の格差、温度差が生じていたようです。

 当時の同社の混乱ぶりは、日本では報道等でよく伝えられていると耳にしています。その混乱ぶりから同社は、適切な対応ができなかったのではないか、という激しい批判にさらされることになったようです。これも、「情報を上にあげる」構造がネガティブに働いた事例と言えそうです。

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