「監視資本主義者」は人類の未来から何を得るのか 「人という天然資源」へと追いやられる私たち

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社会理論学者のデヴィッド・ハーヴェイは、アーレントの洞察を発展させ、「略奪による蓄積」という概念を打ち立てた。「略奪による蓄積は、……非常に低いコストで(場合によってはコストをかけずに)一連の資産を解放させる。過剰に蓄積された資本は、そうした資産を捕らえて、直ちに収益性の高い用途に転用する」とハーヴェイは述べる。

さらに、「このシステムへの参入を決意し、資本の蓄積から得られる利益を享受しようとする企業家は」、往々にしてこの略奪のプロセスを、無防備な新しい領域で実行しようとする、と彼は言い添える。

擬制商品としての「人間の経験」

ペイジは、「個人の経験」がグーグルの原木になることを理解した。しかも、ネット上では追加料金ゼロ、「センサーが実に安い」実世界ではきわめて低コストで抽出できるのだ。ひとたび抽出された個人の経験は、行動データに変換され、余剰として、まったく新しい市場で売買される。

監視資本主義はこのデジタル強奪を起源とし、「過剰に蓄積された資本」の切望と、このシステムへの参入を望む2人の企業家によって命を吹き込まれた。これが、グーグルの世界を動かし、利益の追求へと向かわせた力だ。

今日の監視資本のオーナーは、第4の擬制商品は「人間の経験」から抽出される、と公言する。彼らから見れば、人間の体、思考、感情は手つかずの資源であり、かつて自然界にあふれていた草地や森林と同じく、それらを市場の力学が吞み込んでも、非難には値しないのだ。

この新たな論理では、人間の経験は、監視資本主義の市場力学に操られ、「行動」として再生される。これらの行動はデータに変換され、行動先物市場に取り込まれ、機械によって予測製品に加工され、ついには売られていく。

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