オープンバンキングを知らない人に伝えたい基本 銀行のデータを外部事業者は何にどう使えるのか

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重要な点は、大企業だけがこうしたことをできるのではなく、中小零細企業でも、あるいは個人企業でも安いコストで可能になることだ。

これは、経済活動の効率性と生産性の引き上げに、大きく寄与するだろう。

オープンバンキングで可能になることの事例としてあげられていることを見ると、「新婚夫婦が生活をするための保険や住宅ローンについてのアドバイスを与える」というようなことが書いてある。

しかし、このようなことは一生に1度しかない。それに、このサービス対して高額の対価を継続的に払うとは思えない。だから、オープンバンキングにおける主要なサービスになるとは思えない。

オープンバンキングが提供するサービスは、企業の経営に関するものだろう。とくに中小企業を相手にするものだ。

ビッグデータとして信用スコアリングに用いる

銀行APIで得られるデータの活用のもう1つは、それをビッグデータとして利用することだ。

とくに重要なのは、信用スコアリングを通じて融資を行うことだ。この技術の最も重要な使用例の1つが融資である。

とくに中小企業は、従来、ローンを含む主流サービスへのアクセスに苦労してきた。

失敗した中小企業の多くがキャッシュフローの問題が原因であると推定されている。

中小企業にとっても個人にとっても、手頃な融資を迅速に利用できることは非常に重要だ。オープンバンキングは、金融包摂を可能にするための重要なツールである。

オープンバンキングデータを通じたより総合的なデータセットを活用することで、貸金業者が与信決定プロセスを合理化し、与信可能性を評価できるようになる。

これにより、これまで主流の金融から排除されていた個人や中小企業が、必要なときに手頃な価格で融資を受けられるようになる

これは、「金融包摂」と呼ばれる現象だ。

アメリカの住宅ローンなどでは、すでにこれが可能となっている。

イギリスでは、オープンバンキング・ソリューションを利用している人の数が最近200万人を超え、パンデミックが発生していた半年間で倍増した。

銀行は重要なデータを持っていた。それがこのような形で利用できることになる。銀行にとっては収益にもなる。

電子マネーやCBDCという形ではなく、このような形でマネーのデータをプロファイリングに使うことができるのだ。

なお、ここで重要なのは、いうまでもなく、個人情報の保護だ。本人名を特定できないようにすれば、ビッグデータとして活用することができると思われる。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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