日本と米国「ワクチン開発力」広がった根本的要因

地下鉄サリンと炭疽菌テロからの教訓

地下鉄サリン事件から学ばなかった日本と炭疽菌郵便テロから多くを学んだアメリカの巨大な差とは?(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

ハーバード大の授業で取り上げられた地下鉄サリン事件

コロナワクチンの開発で諸外国に大きく後れを取った日本。すでに実用化して全世界へ供給を進めるアメリカ。その差は過去に自国だけでなく他国で起きたバイオテロや新感染症流行から何を学び、準備を整えていたかの違いにある。

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「10時15分、松本サリン事件を経験した信州大医学部教授がサリン中毒患者の兆候と対処法について東京の被害者受け入れ病院にFAXを送った。極めて的確な判断だ」

これは報告書の一節ではない。日本政府は世界を震撼させた「地下鉄サリン事件」の報告書すら出していない。ハーバード大学公衆衛生大学院「災害医療」の授業中に担当講師が発したコメントである。

1995年3月20日(月)、朝のラッシュ時にオウム真理教による地下鉄サリン事件は発生した。サリンはビニール袋に入れられ、さらに新聞紙で包んであった。信者たちはこのサリン袋を手に4つの地下鉄路線に乗り込んだ。駅で降りる際に傘の先でつついて袋を破り、すぐさま駅を降りたのだ。その結果、13名が死亡し6000人が病院を受診した。

クラスで唯一の日本人であった私に「その時の様子はどうだった?」と白羽の矢が立った。私の母校であり職場の慈恵医大病院でも地下鉄日比谷線「神谷町」駅でサリンに曝露された多くの犠牲者を受け入れた経緯がある。

事件当日、救急室に最初の被害患者が運び込まれたのは8時半前後。次々と運ばれてくる患者は「呼吸が苦しい、目の前が暗い」と口々に訴えた。当時は未だ救急医学講座がなく、患者の訴えに応じて看護師が関係しそうな科の当直医を呼ぶシステムだった。朝のカンファレンスとぶつかり医師がつかまりにくいい。患者は瞬く間に救急室からあふれ出した。

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