日本と米国「ワクチン開発力」広がった根本的要因 地下鉄サリンと炭疽菌テロからの教訓

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アメリカは2020年1月、「新型コロナに対するワクチン、治療薬、診断薬の開発、製造、配送を助け、2021年1月までに安全で効果的なワクチンを開発し、3億回分を生産し、接種を開始する」ことを目標にワープ・スピード作戦を発動した。

アメリカで主導権を握ったのはBARDAだ。国内外の企業に対してワクチンの開発・製造・流通に128億ドル(約1.4兆円)以上もの予算を投資し、通常であればワクチン開発に10年かかるところ、有言実行でおよそ1年という驚異的スピードで目標を達成したのだ。

成功に学ぶか失敗に学ぶかの差

地下鉄サリン事件から学ばなかった日本と炭疽菌テロから多くを学んだアメリカ。この違いが20年以上の時を経て新型コロナに対するワクチン開発力の差となって表われた。

日本はオウム真理教の蛮行をテロではなく「事件」、新型インフルエンザ・パンデミックを失敗ではなく「成功」、エボラ出血熱やジカ熱のエピデミックを隣の火事ではなく「対岸の火事」、新型コロナ対応を「泥縄だったけど結果オーライ」として捉えてきた。そして「喉元過ぎれば熱さを忘れる」傾向にあった。

一方、アメリカは「危機には極めて強い類似性がある」ことに気付いていた。テロやパンデミックはいつか必ず起こると仮定し、それらへの備えを安全保障の大きな柱とし、DHSやBARDAを創設するなど戦略的に国のシステムを変革してきた。

私は、ハーバード大学院でケース・メソッドという日本では耳慣れない方法で学習する機会を得た。誰かの責任を問うためではなく、似たようなケースが発生したとき、より良く対処するためのものである。だからそのほとんどが失敗事例だ。しかし、教訓に満ちている。一方、日本ではケースを扱ったとしても成功事例が多く、ここからの学びは少ない。このケースのとらえ方の差が日米の大きな違いを生んだと感じている。

(浦島充佳/東京慈恵会医科大学教授)
 

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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