日本と米国「ワクチン開発力」広がった根本的要因

地下鉄サリンと炭疽菌テロからの教訓

ところが翌2001年初秋、予見は現実のものとなった。9月11日のアメリカ同時多発テロに引き続き、9月から10月にかけて郵便を使った炭疽菌テロが発生したのだ。

オウム真理教は失敗に終わったがボツリヌス毒素や炭疽菌を使ったバイオテロも実行していた。アメリカは専門家を派遣するなどしてこの対岸のケースを徹底的に調査していたから炭疽菌郵便テロがアメリカ内でも発生しうることを予見できた。私はそう考える。

炭疽菌の入った手紙ははじめにメディア、次に議会に送られた。5人が死亡、ほかに17人が発症した。厳重にテープで巻かれたあやしい手紙が郵便局で発見された。郵便番号間違いで郵便局に留め置かれていたのである。上院議員宛で、中には10万人を殺すに足る量の炭疽菌が含まれていた。

アメリカ政府はもはや昔の戦争で通用した手段・作戦は、この新しい敵に対しては通用しないと悟った。だから、対テロに関わる連邦機関を統合し、国土安全保障省(DHS)が誕生した。「兵器化された大量の炭疽菌が空中散布されたらアメリカはどうなる? 天然痘ワクチンを国民全員に接種するべきか?」といったことが真剣に議論されるようになる。そして、バイオテロに対する防衛のために3つのプロジェクトを主導した。

ワクチンと治療薬の開発を加速する国家的取り組み

その中の1つ、バイオシールドは医学的対抗措置、主にはワクチンと治療薬の開発を加速するための国家的取り組みとしてはじまった。2006年、これは「アメリカ国内に公衆衛生上の緊急事態が発生することが予見されれば、必要なワクチン・医薬品などの開発に投資し、そのプロダクツを購入するための組織」として生物医学先端研究開発局(BARDA)に発展した。

さらに、2013~2016年の西アフリカでおよそ3万人の感染者と1万人の死亡者をだす過去最大規模のエボラ出血熱エピデミックが発生した。また、ジカ熱がブラジルを中心に広がったのもこの頃だ。これらのことが、アメリカ生物防衛戦略の転換点となったのである。

新興・再興感染症のアウトブレイクが世界のどこかで発生すれば、いずれアメリカにも入ってくる。そこでアメリカ政府による生物兵器防衛を強化するために、DHSを含む連邦15省庁と諜報機関との調整を改善する戦略を「2018年アメリカ生物兵器防衛戦略」を通して発表した。バイオテロに新興・再興感染症のパンデミックを加え安全保障の大きな柱の1つとしたのである。

この予見も見事に的中した。新型コロナのパンデミックである。

次ページ10年かかるワクチン開発をおよそ1年で達成した
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