多数意見に「のまれる人」「打ち勝つ人」決定的な差 「ネオヒューマン」はビジネスパーソン賛歌だ

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ピーターさんは、難病患者には「繁栄」する権利があると書いていますが、独特な表現だと思いませんか? 「ローマ帝国の繁栄」などと言うとき、そこには「勝利した状態が続いている」という含みがあります。未開の地で、誰にも見つけられずひっそりと存続し続けている国家を「繁栄している」とは言いません。繁栄とは永続的な勝利なのです。

井上 大輔(いのうえ・だいすけ)/マーケター、ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部 メディア統括部長。ミュージシャンを志すも挫折。ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンなどでマネージャーを歴任。ヤフー株式会社MS統括本部マーケティング本部長を経て現職。雑誌・Web媒体への寄稿や講演会・セミナーへの登壇多数。NewsPicksアカデミアプロフェッサー。著書に『マーケターのように生きろ』(東洋経済新報社)など。

ピーターさんは、難病を抱えた現実をただ受け入れているのではなく、そこから一歩先に進んで、常に現実に「勝とう」としている人です。この、現実を打ち負かしてやろうという1人の人間の反骨精神こそが、人類を進化させ、歴史を発展させてきた心がけなのではないかと思いました。「幸せになる」ための心がけではなく、「歴史を変える」ための心がけです。

もう1つ印象的だったのが、ピーターさんの「ヒューマニズム」です。「人間を超えた大きな何か」の存在を否定し、「みんな1人の人間なんだ」「はじめはすべて1人の人間が思いついたことなんだ」と考える姿勢。

だから医者にダメだと言われても、「そんなのは『意見』でしょ」と考える。普通の人ならば、1人のみならず複数の医者にそう言われれば、それが絶対的な答えであるかのように感じてしまうでしょう。しかし、彼は、医者も1人ひとりが自分と同じ人間にすぎない、医学の常識もしょせんは誰かの意見にすぎない、という考え方で乗り越えていきます。

だからこそ、ルールを壊すことができるのです。常識をひっくり返す、と言うとなんだか大変なことのようですが、誰かの意見に反対するのはそれほど難しいことではありません。

「人間を超えた大きな何か」の代表格は「神」や「運命」でしょう。また、社会は単に人間が集まった以上の存在であり、社会そのものが生きているモンスターのようなものだという考え方もあります。一方でピーターさんはこう考えます。運命などない。社会も1人の人間の集合でしかない。だからこそ、自分も人間であれば、社会や歴史を変えていくことができるのだ、と。

例えば「農業革命」や「産業革命」も、「歴史の必然」などではないかもしれません。もとをただせば1人の個人による、「なにくそ、この現実に打ち勝ってやる」という強い意志や執念から始まったのではないだろうか――そんなふうにも捉えることができるのです。

ピーターさんがこれだけのことを成し遂げた背景には、「勝って繁栄する」という現実との向き合い方に加え、こういった人間観、社会観、歴史観があったのだと考えました。

エスタブリッシュメントに挑む

この考え方を身につけることができれば、ピーターさんが成し遂げたことは、実は、普通の人にも可能なのではないかと思えてきます。

世界や歴史を変えるような大きなことまではできないかもしれませんが、身の回りにある絶対的なルールや常識に打ち勝つことで、新しいものを生み出すことはできるはずです。

例えば、社内や業界内に鉄の掟があったとしても、もとをただせばそれは誰か1人の意見です。人を超えた何かではなく、あくまでも1人の人が作ったもの。人間は誰しも完璧ではありません。同じ人間として向き合うことができると考えれば、それを変えることが不可能なはずはありません。

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