経済安保についての基本的な考え方としては、昨年12月に自民党がまとめた「提言:『経済安全保障戦略の策定』に向けて」 が参考になる。
●戦略的自立性の確保(守り)→他国に依存することなく、戦略基盤産業(エネルギー、通信、食料、医療、金融、物流など)を強靭化
●戦略的不可欠性の強化・獲得(攻め)
→国際社会において不可欠な産業を強化。民間の自助努力を後押し。
ひと通りの産業を自前でそろえ、なおかつ他国がうらやむような得意分野を維持する。そんなことは、本来はどの国も目指すところである。とはいえ、容易なことではない。古き良きグローバル化時代には、「そこはお互いさまだから」と相互依存論が好んで語られたものだ。
しかしコロナ後の世界においては「ワクチンを国産できないのはともかく、せめてマスクぐらいは自給したい」と誰もが考える。ゆえに各国が経済安保を気にすることになる。
6月26日号の『週刊東洋経済』では、特集の副題に「日本企業は米中の板挟み」とある。6月のコーンウォールG7サミットからの一連の流れを見ると、どう考えても米中関係のさらなる悪化は必至だ。特にAIやらビッグデータやらをめぐって、いわゆる「機微技術」の扱いが悩ましい。そもそも米中対立の根源には、軍民融合を目指す中国政府の取り組みがある。さらに香港や新疆などの人権問題をめぐって、中国への批判も高まっている。
先端技術に関する米中対立の問題に絞り込むべき
私見ながら経済安保を論じる場合は、先端技術に関する米中対立の問題に絞り込むべきだと思う。人権問題を入れてしまうと、問題が拡散して本質を見失う。「新疆綿」を使ったユニクロのシャツがアメリカで輸入を差し止められた件は、過去にもあったことの応用問題だ。法務部やCSR部、コンプライアンス部など既存の部署の守備範囲となる。
新たに経済安保をテーマとする部署を作るのであれば、やはり技術やデータの扱いが最重要課題となる。例えば、欧米では当たり前の「セキュリティー・クリアランス」(民間人が外国のスパイでないことを確認する仕組み)を導入する、なんて話も始まりそうだ。
米中の事業をどう仕分けするか、というのも大きな問題になる。機微技術の範囲はそれほど広くはないとはいえ、外から見た場合の「社内ファイヤーウォール」的なものが必要になってくるだろう。とはいえ、会社は1つで社長も1人なのだ。
それにしても頭が痛いのは、企業が自社の技術について政府に相談する場合、他社にはけっして聞かれたくはない、という事情がある。例えば経済産業省に「駆け込み寺」ができるのはいいけれども、「経済安保に関する官民協議会」を作ります、などと言われてもそんな場所でホンネの話ができるはずがない。きわめて実効性の低い組織になることは間違いないだろう。あるいは「コーポレートガバナンスコードに経済安保の項目を入れます」と言われても、いったい誰が内容を判断できるのか。
各省庁は来年の通常国会に提出すべく、「経済安全保障一括推進法案」の作成を始めている。この話題、当分避けては通れないようである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。
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