『週刊東洋経済』の「全解明 経済安保」(6月26日号)という特集が大変に充実している。ヨイショするわけじゃないけど、勉強になったと申し上げておこう。そこで「東洋経済オンライン」でも、この問題を取り上げてみることにしたい。
「エコノミック・ステーツクラフト」とは?
昨今の日本企業では「君、今日から経済安保の担当ね」「ええっ、それって何をすればいいんですか?」みたいな会話があちこちで繰り広げられている。
「経済安全保障」に関する部署や役職が急造されても、その職務内容は漠然としている。この言葉自体は以前からあったけれども、最近使われているのは"Economic Statecraft"の訳語として、であるらしい。
困ったことに、この「エコノミック・ステーツクラフト」が翻訳できない。”Statecraft”には「政治的手練手管」とか「権謀術数」のニュアンスがあって、あまり良い意味の言葉ではない。強いて言えば「経済的手段による国益の追求」であって、訳さずに単に「ES」と称する政治学者もいるくらいだ。
わかりやすい例を挙げれば、中国などはしょっちゅうこの手口を使っていて、過去には豪州産ワイン、台湾産パイナップル、ノルウェー産サーモンなどがやり玉に挙がっている。つまり気に入らない国が出てくると、「お前の国の××は買わない」と脅す手口である。
2010年に尖閣問題が浮上した直後には、対日レアアース禁輸措置が発動された。ラーメン屋のオヤジが、「お前に食わせるタンメンはねえ!」と客に啖呵を切るのはご愛嬌だが、国家が「ウチの××はお前の国には売らない」と言ったらWTO(世界貿易機関)違反となる。中国もさすがにこの点は学習したらしいが、ハイテク製品の製造に不可欠なレアアースがいわゆる「戦略商品」であることに変わりはない。
近年は「売らない、買わない」という貿易にとどまらず、援助や観光、金融や制裁などを組み合わせて、高度な「ES」が横行するようになっている。今からちょうど2年前、ほかならぬ日本政府が発動した事案もかなりの「知能犯」であった。
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