2019年7月、日本政府は韓国向けの半導体材料(レジスト、エッチングガス、フッ化ポリイミド)の輸出規制に踏み切った。表向きは輸出貿易管理令の運用変更であり、韓国の輸出管理に疑義があるから、という措置であった。
しかるにこれは、元徴用工訴訟で対応を示さない韓国政府への「対抗手段」であるという見方がもっぱらであった。日韓関係にはそれ以前から、従軍慰安婦合意の一方的破棄、レーダー照射事件、水産物規制などの問題が積み重なっていた。実際に当時の参議院選挙党首討論会では、安倍晋三首相が「韓国への対抗措置」という認識を示している。
韓国による半導体材料の対日輸入額は 5000 億ウォン(約490億円)に過ぎない。しかし韓国製の半導体とディスプレイは、全世界への輸出総額が 170 兆ウォン(約16.7 兆円)に達する。つまり日本側は失うものが小さく、韓国側が受ける打撃は大きい。実際にサムスン電子などの半導体大手は材料の手当てに大わらわとなり、一部では「レバレッジの効いたうまい作戦だ」などと言われたものである。
かかるES的手法、「経済を武器にして他国に影響力を行使する」という発想は、少なくとも過去の日本外交にはなかった。むしろ「意地悪をされても、仕返しはしない国」であった。とうとう日本もここまでするようになったか、と当時は感心したものである。もっともその後の進展を見ると、あまり効果を上げたようには見えないのであるが。
企業も「何でもあり」で備えねばならない時代に
ともあれ、世界は「ES」が横行する時代を迎えている。これを「経済安全保障」と訳するのは、あくまでもわが国は受け身であって、自分から攻めていくことなどは考慮の外、という態度を意味しているのであろう。
要は政治と経済の垣根が低くなってきて、技術も日進月歩であるという時代においては、企業は「何でもあり」で備えなければならないのである。
6月18日に政府が閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2021) においても、サプライチェーンの強靭化など「経済安全保障の確保」が初めて明記された。
目玉商品としては、半導体の製造・開発拠点の国内誘致への集中投資が考えられる。4月の日米首脳会談では、民主主義国同士で半導体供給網を整備することが日米の合意事項となっている。果たしてどの程度の予算がつくのだろうか。
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