無償で品出しも強要されるトラック運転手の悲惨 「荷主第一主義」の下、契約にない作業が跋扈

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2024年には「人材不足や長時間労働が常態化している」「荷主からの理解を得るには時間がかかる」などの理由で5年間猶予されていた「働き方改革関連法」が、運送業界でも適用される。

施行後は年間時間外労働の上限が「960時間」になるが(一般則は720時間)、これは現在の運送業界にとっては非常に高いハードルで、「今の荷主とのパワーバランスでは守れるわけがない」という声が絶えない。

このままではドライバー不足が加速する

国交省も運賃や附帯業務に関する問題は認識している。一昨年に「附帯業務の記録の義務化」を、昨年は「標準的な運賃の告示」を行ったが、標準的な運賃を守らなくても荷主が罰せられるわけではなく、附帯作業においても、不払いに対する明確な罰則を設けるまでには至っていない。

深刻な問題を引き起こしている運送業界の「荷主第一主義」。この打開のためには、業界全体が足並みをそろえ、荷主に強固な姿勢を見せることが必要となる。だが結局、「荷物の取り合い」をする関係上、荷主の要望を受け入れて激安の運賃で仕事を受ける事業者がなくならず、いっこうに改善に向かっていないのが現状だ。

運送の世界は、カタチのない商品を提供しているがゆえに、「コスト」として捉えられがちで、「値下げ」や「附帯作業」以外に競争手段を見出すのが難しい業界だ。しかしこれ以上、値下げと無償の附帯作業だけで他社との差別化を図ろうとすれば、トラックドライバー不足は加速し、将来必ず日本の物流に大きな影響を与えることになる。

こうした現状から脱するためには、国の荷主に対する下請法や独禁法の取り締まりや罰則の強化に加え、荷主の運び手に対する理解、運送業界の足並みをそろえることだ。そして簡単ではないが、運送事業者自身が「独自の新たな付加価値」を見出す努力もやはり必要だろう。

橋本 愛喜 フリーライター

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はしもと・あいき / Aiki Hashimoto

大阪府出身。元工場経営者・トラックドライバー。ブルーカラーの労働環境問題などについて執筆。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。

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