長期「ひきこもり経験者同士」が結婚で得た居場所 こうやって唯一の“帰る場所"を作り上げた

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「私は食べることは好きですが、家の外ではほとんど口に入りません。啓介さんはそれでも連れて行ってくれて、私が注文した分もシェアして食べてくれました」

デート初体験の美香さんには計算などはなかったはずだが、婚活の初期戦略としては期せずして大正解だったと筆者は思う。LINEでのやり取りで「避けられてはいない」ことを確かめた後、男性が連れて行きやすい飲食店でのデートをお願いする。隣り合って食べたりシェアをしたりすれば、相手を生理的に受け入れられるかどうかもわかるだろう。

富士そばデート以降はLINEだけでなく直接会うようになった。30代以降は恋愛から離れていた啓介さんも美香さんからの明白な好意を確信するようになり、「情が移った」と振り返る。追いかけられると受け入れたくなるタイプの男性なのだ。

「頭の回転が速い女性であることは事業所の体験を手伝ったときに知っていましたし、外で会うようになってからは細かいところによく気がつく人だと感じました」

例えば、映画館デートの際に、食べる音がしにくいぬれせんべいやチョコレーズンを持って来てくれたらしい。こういうささいなところに人柄が出るのかもしれない。

美香さんのほうは、啓介さんとの交際経過をすべて両親に報告して相談に乗ってもらっていた。そのため、結婚に関しても心配をかけることはなかったという。

つらい経験もお互いに理解できる、前向きな居場所

「実家を初めて離れることはすごく不安だったけれどうれしかったです。生まれ育ったところは近所の目も気になるけれど、今は新鮮な気持ちで過ごせています。啓介さんに恋をした頃は苦しかったけれど、今は落ち着きました。彼は背広がとても似合うので、毎朝『今日もカッコいいね。行ってらっしゃい!』と送り出せるのが楽しいです」

それでも感情の浮き沈みがあり、ときどき「爆発」してしまうこともある美香さん。自分はここにいていいのか、と底が抜けるような気持ちに陥るのだ。そのたびに啓介さんがはっきりと口に出して受け止めてくれる。

「アンタの居場所はここだけだよ。ここにいてください」

新生活に慣れるために美香さんは外での仕事は辞めて、専業主婦として家庭を守っている。3Kの間取りは、繊細なところがある啓介さんのために寝室を分けた。もう1室は共通の趣味であるバーチャルサイクリング「ZWIFT(ズイフト)」用に確保してある。この新居は啓介さんにとってもただ1つの“帰る場所”となっている。

「仕事から一人暮らしの暗い部屋に帰るのとは大違いです。結婚してからは家に帰るのが楽しみになりました」

出口が見えないほど長くて狭いトンネルを抜け、今では明るい部屋で一緒にズイフトを楽しんでいる2人。お互いの存在を自分の居場所だと感じられることが結婚生活を続ける最大の意義なのかもしれない。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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