長期「ひきこもり経験者同士」が結婚で得た居場所 こうやって唯一の“帰る場所"を作り上げた

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「うつで会社を辞めてから10年以上が経っていました。あのとき、よく思い立って入所したなと今でも思います」

もともとは大企業の第一線で活躍していた啓介さん。面倒見のいい性格もあり、スタッフからは「開所史上最強の利用者さん」と呼ばれていたらしい。2年間のプログラムを終えて再就職先を決めた後も、卒業生の1人として事業所をボランティアで手伝っていた。そのときに見学に訪れたのが美香さんだった。

美香さんが啓介さんと出会うまで

美香さんのひきこもり歴は啓介さん以上に長い。トップの成績で入ったという地元の高校に通えなくなり、40代になるまではずっと実家で過ごしてきた。

「啓介さんと出会うまでは男性と手をつないだこともありませんでした。初恋の人はNHKの人形劇で見た(三国志演義の)諸葛孔明です」

そんな美香さんの体調が少しずつ改善し、担当医師の勧めで就労移行支援事業所に見学に行った。43歳になっていた。そこで事業所内の諸葛孔明である啓介さんに出会い、「この人だ!」と感じたという。

「何でもずば抜けてできるし、私がいちばん好きな知的で穏やかな人だったからです。見学会から半年後に1週間の体験入所をする機会がありました。そのときにも啓介さんがいたので、最終日に勇気をふり絞ってLINE交換をお願いしたんです」

2018年の春の出来事だ。それ以来、美香さんから啓介さんへのラブレターのような作業報告LINEが毎日欠かさず届くようになった。同じ事業所でのプログラムという共通点があるので話題には事欠かないのだ。

「今日はこんなことをやりました!という長文を毎日送っていました。啓介さんからは『よかった。お疲れさん』といった1行返信が届くだけでしたけど(笑)」

再就職先では社内の情報セキュリティーを担当している啓介さん。10年以上ぶりの会社勤めに励みながら、美香さんのことは「頑張っている学友」として認識していたという。

「彼女からの若干の好意は感じていましたが、当時は女性として意識していませんでした」

夏になると美香さんが一歩踏み込んだお誘いをする。事業所の近くにある「富士そば」に一度行ってみたいけれど、男性客が多いので入りにくいと啓介さんに甘えたのだ。

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