東芝問題、新聞が報じない経済産業省の本当の罪 自ら推進した「株主主権主義」の罠にはまった
東芝の株主総会が6月25日に迫っている。6月10日に公表された第三者委員会による調査報告書は何が面白かったかというと、同社の株主総会をめぐる主導権争いに経済産業省の役人が介入した様子、その暗躍ぶりが活写されたことで、そこに登場するアクティビストとも呼ばれる「ものを言う株主」たちを、あたかも正義のヒーローであるかのように取り上げる空気が世に醸成されてしまったこと、その劇画的ともいえる構図である。だが、筆者は、今回の一件について一般の報道とは異なる観点を提示してみたい。
まずは報告書作成に至った経緯である。昨年7月31日に開催された東芝の株主総会が「公正な運営」であったのかに疑義があるとする9月23日付けのアクティビストからの調査要求を、同社経営陣が無視したというところから始まる。調査を要求したのは、旧村上ファンドで活躍したメンバーがシンガポールで設立したエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(以下「エフィッシモ」と略)。ちなみに、このエフィッシモ、問題の7月の株主総会の直前に株式を売却、保有比率を15.36%から9.91%に引き下げているが筆頭株主である。
調査要求を仕掛けたエフィッシモの作戦
株主総会の「招集手続および決議方法」が公正に行われるかどうかに懸念がある場合、議決権の1%以上を有する株主は裁判所に総会の開催前に「総会検査役」の選任を申し立てることができる。これは、会社法第306条第1項による強行規定で、総会検査役は裁判所が選ぶ。
昨年7月の東芝の株主総会については、早くから波乱が予想されたのだから、アクティビストという名の「プロ中のプロ」の投資家であるエフィッシモなら、総会検査役選任を求めても良さそうなものだ。そうした申し立てを考えなかったのだろうか。おそらく戦術的にそうしなかったのではないか。なぜなら、総会検査役が裁判所によって選任されてしまえば、少なくとも法の建前上、後から総会の公正性につき疑義を提起することは難しくなる。
エフィッシモは約2カ月後の9月23日に、総会の「公正な運営」につき疑義があるとして会社側に調査を要求し、それが容れられないと12月17日付けで臨時株主総会の開催を請求した。これは会社法第297条に規定された3%以上の議決権を有する株主の権利に基づく。そして、今年3月18日に招集された臨時株主総会で、エフィッシモは、前田陽司氏、木﨑孝氏、中村隆夫氏の3人の弁護士をメンバーとする調査委員会の設置を提案して承認される。これが、報告書が世に出るまでの経緯である。
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