東芝問題、新聞が報じない経済産業省の本当の罪 自ら推進した「株主主権主義」の罠にはまった

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もっとも、そんな面倒な話ではなかった可能性もある。HMCは昨年7月に辛くも継続を許された車谷暢昭氏率いる東芝が収益を回復させるであろうことを、世界最高学府の知見をもって見通したうえで、議決権放棄に回ったのかもしれないからだ。実際、車谷氏が欧州最大のプライベートエクイティファンドとして知られるCVCキャピタルパートナーズのパートナーを辞めて東芝CEOに就任した2018年以降、東芝の収益は急速に回復している(「東芝、車谷体制『突然の終止符』の先に待つ混沌」)。

もしそうなら、HMCは、東芝への投資について、エフィッシモとは違う視点から「配当よりは成長」を選択したことになる。そうなると、この報告書、経済産業省の圧力によって「総会の議決が歪められた」ことを物語るものにはならず、ただ経済産業省の介入的な行動を批判するだけのものにしかならないのだ。さて実際はどうだったのだろうか。

これは普通なら「藪の中」を探るような話で終わるのだが、なにしろハーバード大学はビジネススクールやロースクールにおいて、ケース教育で知られる。ケース教育とは実際にあった事案を教材として整理し学生に考えさせることで現実への理解を深めさせるというものだ。今回の件も、ぜひケース教育の材料に取り上げてほしいものである。楽しみである。

東芝問題で経済産業省は自縄自縛に陥った

さて、日本人としてはHMCよりも、経済産業省について論じるべきだろう。同省は日本の産業界に君臨するというか、かつては君臨していたことがある。そして私たちの授権と税金によって存在している「官」である。

このたびの経済産業省の滑稽さは、彼らを「不公正」と非難する報告書に記載されている個々の行状にあるのではない。彼らの滑稽さは、報告書が同省の関与を「不公正」であると断じた基準が東京証券取引所による「コーポレートガバナンス・コード」であり、そのコードなるものの作成に深く関与したのが他ならぬ経済産業省自身であることだ。

コードの基礎になっているのは、「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」と題する報告書で、通称「伊藤レポート」、企業統治における株主主権の強化を求めたものとして知られる。つまり、経済産業省自らが作り出したルールによって自らが攻められるという構図になってしまったのだ。

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