東芝問題、新聞が報じない経済産業省の本当の罪 自ら推進した「株主主権主義」の罠にはまった

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前述の総会検査役の役割は、総会の「招集手続および決議方法」を調査することである。しかし、株主総会の決議により設置されたこの調査委員会は、それにとどまらず、総会が「公正に運営されたか否か(決議が適法・公正に行われたか否かを含む)に関連して、調査者が必要と認める一切の事項」にまで拡張して調査することができるとされている。

これが、報告書の前段で議決集計処理についておおむね問題がなかったとする一方で、報告書の過半に当たる後段で議決権行使可能者に対する「圧力問題」、とりわけ経済産業省筋からの圧力問題を詳細に取り上げることの根拠になっている。裁判所が設置した総会検査役の報告書なら前段部分だけで終わっていただろうと想像すると、この辺りにアクティビストとしてのエフィッシモの作戦の見事さがある。

さて本題は、株主への「圧力問題」とは何かである。

本件は基本的に東芝vsエフィッシモの会社支配をめぐる議決権獲得競争、いわゆる「プロキシー・ファイト」と呼ばれるドラマの一種にすぎないと筆者は見ている。とはいえ、今回の件には普通のプロキシー・ファイトにはない面白味もある。その第一は、心ならずも道化役を演じてしまったように見えるハーバード・マネジメント・カンパニー(以下、「HMC」と略)というアクティビスト株主の立場。第二は、自身が関与したお粗末な政策設計のせいで滑稽極まる「悪のヒーロー」役を演じることになってしまった経済産業省の問題である。

HMCはどのように考えて行動したのだろうか

まずはHMCである。この世界最高学府ともされる大学の名を冠した機関投資家は、300億ドルをはるかに超えるといわれる大学基金の運用を行う。要するに理論と実績の両面でエリート中のエリートともいえる投資集団だ。HMCにとって、今回の騒動は降って湧いた災難だったのではないか。

何しろ、今回の報告書には、経済産業省の「不正な圧力」に屈して昨年7月の株主総会で議決権放棄に回った投資家として描かれてしまった。弱小の零細投資家なら被害者として同情もされようが、天下のハーバード大学の資金運用会社では恥ずかしい話ぐらいでは済むまい。「公正とはいえない圧力」に負けたということ自体で、資産管理会社としての責任を資金預託者から追及されかねないからだ。

経済産業省の圧力なるものが報告書記載のとおりに「不公正」なものなのであれば、HMCのとるべき道はエフィッシモ同様に「不公正」に対して敢然と立ち向かうことである。それをしなかったのなら、何か裏取引のようなものがあったのかと邪推されかねない。そうした観点からは、今回の報告書はアクティビスト株主としてのHMCに対する批判をも含んでいる面がある。

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