インフレは続かずFRBの利上げ観測も再び遠のく 持続的なインフレのカギを握るのは賃金の上昇

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持続的なインフレが出現するか否かは、結局、賃金が持続的に上がるかどうかで決まる。これはまさに日本にとっての大問題だが、アメリカも構造的な問題を抱えてかつてほど上がらない。コロナ危機前にも、失業率が下がってもインフレ率が上がらない(フィリップスカーブの水平化)という状態が続いていた。

だからこそ、FRBは2020年8月に新たな金融政策の枠組みとして、インフレ期待を持ち上げるために2%をオーバーシュートするインフレ率がしばらく続くことを許容するとした。前FRB議長で現財務長官のイエレン氏はインフレのリスクがない限り、雇用の最大化を目指し続けるという高圧経済論を展開した。低成長、低インフレ、低金利の定着といういわゆる「日本化」に陥ることを回避したいというものだ。

非農業部門雇用者数はコロナ禍前の2020年2月と比較すると、760万人下回っている。100万人程度は需要の回復や手厚い失業保険給付の解消、子どもが学校に戻れることによる親の職場復帰などで回復が見通せる。

構造的な失業問題はなかなか解消せず

だが、そこから先はどうか。「企業はスキルを持った人が欲しい、あるいは対面サービスができる人が欲しいが、働く側はスキルが不足している、対面サービスの仕事には就きたくない、などのミスマッチがある。こうした構造問題は容易に解消しない。消費者の値ごろ感もあるので値上げは難しく、そうなると賃上げも続かない。2022~23年にはまたしても、FRBはフィリップスカーブの水平化の問題に直面するのではないか」とみずほリサーチ&テクノロジーズの小野氏は予想する。

BNPパリバの河野氏も「FRBは2つにわけて考えている。雇用者数の増加の数字を見て、テーパリングは決められるが、利上げはそうはいかない。人種やジェンダーの雇用問題、スキルが不十分で8時間働きたいが3時間しか働けないなどといった労働参加の実態を社会包摂的な意味で見て判断していくだろう。そうした問題がある程度解消されないと賃金は上がっていかず、継続的なインフレ上昇にもならない。そこまでには距離がある」とする。

アメリカには起業の精神があり、価格への需給の反映も日本よりもずっと柔軟だ。しかし、現下のアメリカのペントアップ需要での盛り上がりに対して、欧州や日本の回復はこれからであるし、新興国はまだ厳しい状態にある。アメリカも社会における格差の問題などコロナ前の構造問題は何一つ解決したわけではない。中長期で見たインフレ率や潜在成長率の改善はハードルが高いだろう。利上げ観測は再び後ろ倒しになるのではないか。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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