クイーンで言えば、傑作『Bohemian Rhapsody』(1975年)の後半。細かく刻まれた複雑なメロディを、自由に、しかし完璧なテクニックで歌ってハモる、あの奇想天外なボーカルアレンジ。しかし『Butter』の場合は、そんなボーカルアレンジが、シンプルなリズムとコードの上に乗っているという点で、ある意味、さらに独創的だとも言える。
そして、この点もまた、メンバー全員のユニゾンが延々と続く、日本の多くのアイドルグループの音に対する差別化になっていると言えなくもない。
『Butter』のボーカルを何度も何度も聴いて私は、高級な幕の内弁当を思い浮かべた。
小さいパッケージの中に、さまざまな食材が並べられている。雑然と、ではなく、味わいや色合いの重なりも吟味して、美しく鮮やかに並べられている。それでいて、シンプルに炊かれたご飯が、さまざまな食材を支えて、つないで、結果、高級だけれども飽きのこない、毎日でも食べられる幕の内弁当になっている――。
以上まとめると、「短い曲の中における、シンプルな演奏(リズムパターン、コード進行)と、多彩なボーカルアレンジとの組み合わせ」――これが『Butter』の音楽的特徴であり、それが日本、ひいては幅広い国の幅広い層に受け入れられている音楽的な要因ではないか、ということになる。
日本の音楽が再度アメリカを席巻する日は…
坂本九がアメリカ・ビルボード1位を獲得した1963年には、「アジア人が再び1位となるのに57年かかり、そのアジア人は、日本人ではなく韓国人だ」と予測した日本人など、まずいなかっただろう。
しかし、マイケル・ジャクソンとクイーンのエッセンスを活かしながら、BTSによる、韓国発の独創的な音楽は、アメリカを席巻、さらに広い世界へと向かっている。
「日本人の音楽が、”ガラケー”にならず、またアメリカを席巻する日は来るのだろうか?」――BTS『Butter』に気持ちよく身を委ねながら、そんな疑問、いや諦念が、頭の中でバターのように溶け出して、染み渡るのだ。
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