シャンプーも歯磨き粉もやめた私が気づいた真実 足りないものなど何もなかったということ

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といってもそれほど大変なことでもない。爪やすりで表面のボコボコを平らにし、切りすぎない程度にマメにカットし、風呂に入ったら一つひとつやさしく洗い、あとは例の「ごま油」を目薬の容器に入れ、こまめに爪の先端と皮膚の間に油を差す。本によれば、油はごま油でなくとも。爪の乾燥を防ぐのだそうです。

足の指をグーチョキパーと動かす運動も始めた。指でしっかりと地面を押す癖をつけ、巻き爪を改善するためである。トータルでせいぜい1日5分程度だが、にしてもこれほど我が足の爪に注意を向けたことは人生初である。

で、その結果はといえば、ボディーソープなどと違い、やってみればメキメキ物事が解決というわけにはいかずに何カ月も変化なし。

それでもめげずにコツコツ爪に愛を注いでいると、3年ほど経つと巻き爪が回復して痛みが消え、さらに数回の爪の生え変わりを経て、最近ようやく、そこそこ鑑賞に耐えるようなピンク色の爪が戻ってきたのであります。

5年前に「ガーン」となっていた私に、大丈夫だよと言ってあげたい。これでようやく、化粧品がなくとも平気と心の底から言うことができる。やっとここまで来た。やればできたのだ。

自分は自分のままでいい

と、そんなこんなでいろいろと書いてきたわけですが、このようにして私の体のお手入れは、ごま油、歯ブラシ、タオルのみとなり、もはや洗面台の極小収納がスカスカに余っている。

おそらくもう一生、化粧品類を買うことはないだろう。というわけで結果的にかなりの金額の節約につながっているわけだが、本当に肝心なのはそこではない。

私が得た最大のものは、お金よりも何よりも、自分の体に対する信頼である。

物心ついてからというもの、たいしたことない自分を精一杯美しく世間にプレゼンせんと、ずっと最新の、画期的な、あるいは最先端流行の商品の情報を集めては熱心に買い集めてきた。

それは確かに心踊ることではあったけれど、一方で、自分そのものにノーを突きつけ続ける行為でもあった。私はそのままではダメなのであった。だからこそいろんなものを買って補い、整えねばならなかった。そうしなければ今も将来も悲惨なことになる。ずっとそう信じて疑わなかった。

でも、そんなことはなかったのだ。

画期的な商品など何も買わなくとも、自分の体はちゃんと機能している。もちろん急に美人になったりするわけじゃないが、体は体で精一杯ちゃんと頑張っているのである。

ほんの少し気を配ってさえあげれば、ちゃんと健やかな状態で、丸く収まるようにできているのだ。自分は自分のままでよかったのである。足りないものなんて何もなかったのだ。

そんなこと、ずっと考えてもみなかった。

自分は自分のままじゃ駄目なんだ、何かが足りないんだと思ってきた。

そうじゃなかったんだよ。

そう思うとちょっと涙でも出てきそうな思いである。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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