アマゾン発「絶望クローゼット」に批判殺到した訳 従業員の疲れを癒すための設備だったはずが…

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ライターのアレックス・プレスさんは、アマゾンのツイート(削除前)を引用する形で、「搾取され、監視されまくっているアマゾン労働者にとっては、簡易トイレの方がもっと使えたんじゃないかと思う」とツイートした。

ジャーナリストのタリア・ラビンさんは、「移動式の絶望クローゼットより、生活できる給料と労働環境の方がマシ」とツイートした。

また、アマゾンが当初ツイッターに投稿していた動画を使い、米人気テレビ・アニメ『フューチュラマ』で登場した、「自殺ブース」に例えたビデオを作った人もいる。

他にも、SNSには「棺桶」「ディストピア」などの声もあった。

長者番付1位への不満が爆発?

こうした反発について米フォーブスは、これまで世間がアマゾンに対してため込んでいた鬱憤(うっぷん)をAmaZenが刺激してしまったと分析している。

アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者は、フォーブスが毎年発表している「世界の長者番付」で今年も1位となり、4年連続で首位をキープした。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に見舞われた2020年、アマゾンは利益を上げ、株価が上昇。ベゾス氏の資産額は2020年のパンデミック中、700億ドル(約7.7兆円)以上増加した(英ガーディアン紙)。

対照的に、アマゾン従業員の待遇や労働環境については、劣悪な様子がうかがえる報道が相次いでいる。今年2月には、午前1時20分~午前11時50分までの「メガサイクル」と呼ばれる「10時間半シフト」をアマゾンが米シカゴの倉庫で導入し、従業員に対し労働契約書にサインするか、職を失うかの選択を迫っていたことが明らかになった。メガサイクルの導入は、米国内の他の配送センターでも密かに進められていたという。

デジタル・メディア「ヴァイス」は当時、労働環境の専門家の話として、長時間のシフトを少ない従業員数で回すという方法は、就労手当などを削減できるため、労働コストを下げる目的で企業が長年使っている手段だと説明していた。

なお、5月に出たヴァイスの続報によると、「メガサイクル」への反発を受けて呼び名は「シングル・サイクル」に変えられたものの、10時間半のシフトには変更がないという。

また3月には、米下院議員がツイッターで、アマゾンのドライバーがペットボトルに排尿せざるを得ない労働環境にいることを指摘。アマゾンの公式ツイッター・アカウントはこれに反論したが、同社は後日、認識が間違っていたことを同社ニュース・ページで正式に謝罪したうえで、「アマゾンだけでなく業界全体の問題」としつつ、下院議員の指摘が事実であると認めた。

さらに英インディペンデント紙によると、アマゾン倉庫内での負傷件数は、米国平均の約2倍になるとの調査結果もあるという。

同紙は、「瞑想ブースを導入しなければならない状態にあるとき、根本的な何かが間違っていることをベゾス氏のような人物は分かっているはずだ」とし、アマゾンの問題の根は、健康的な食生活や瞑想ブースで解決するよりもっと深いところにあると指摘している。

松丸さとみ
フリーランス翻訳者・ライター。学生や日系企業駐在員として英国・ロンドンで計6年強を過ごす。駐在員時は、在英日本人向けに英国および欧州のビジネスニュースを日本語で配信する日系企業にて編集・執筆などに従事。現在は、フリーランスにて時事ネタを中心に幅広い分野の翻訳・ライティング(ときどき通訳)を行っている。
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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