コロナとフクシマに映る政治家と専門家のあり方 日本の危機に求められるリーダーシップとは何か

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船橋:話はリーダーシップ論から少し逸れますが、『失敗の本質』で私がもう1つ鋭い洞察だと思ったのは「学習棄却」の重要性についてのご指摘です。つまり、アンラーニングですが、学びには、ラーニングとアンラーニングの両面が必要だということです。

一方向の過剰な学習には危ういところがあって、懸命に学んだことであっても、技術の進歩や社会の変化に伴い時代に合わなくなるものがある、それを棄てる学習をしなければならない。この洞察はとても重要だと思いました。政治家だけでなく、誰もがそうだと思いますが、成功体験や成功物語にしがみついて、判断を誤るケースがあります。

安倍前首相「日本モデル」発言への違和感

例えば、今のパンデミック対策にしても、一時的に感染拡大が下火になった昨年の5月の段階で、安倍首相は記者会見で「これは日本モデルだ」と胸を張りましたが、私は違和感を覚えました。

なぜかというと、「日本モデル」という成功物語にすると、それまでのやり方でいいのだ、それを続ければ次の波も乗り切れる、今のやり方を再現すればいい、となります。「日本モデル」は一種の例外主義の宣言でもあり、これだと自らの経験からさらに学ぶ、外国の取り組みのケースからもっと学ぶ、学習意思をそいでしまいかねないからです。

本当は、あの時点でこそ、アンラーニングをしなければならなかったのだと思います。検証をして、1回限りの成功例なのか、持続性のあるものなのか、オリンピックの延期を決めた時点で、翌年、オリンピックを開催するのであればワクチン接種作戦はいつまでに、どのくらい、どういう手順で行うのか、つくっておくべきだった。

「日本モデル」を宣言したときにワクチン戦略をどのように考えていたのか。昨年夏に、それらを検証して、学習棄却して、次に備えるべきだった。私が『失敗の本質』から学んだことの1つです。

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戸部:学習棄却が難しいというのは、日本海軍の場合の大艦巨砲主義や、陸軍の白兵銃剣主義のように、成功体験に裏付けられた既存の知識を強化しすぎて、それを捨てられなくなるからですが、そうした知識は教育や訓練や人事や、技術、編制など組織のあらゆる要素と分かちがたく結びついています。だから、なかなか捨てられない。捨てるとすれば、他の部分も大きく変えなければなりません。

ですが、誰もうまく説明できない「日本モデル」の場合はそもそも、そうした捨てられないほどのものになりえていたかどうか。そこが問題かもしれません。

(第4回に続く)

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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