コロナとフクシマに映る政治家と専門家のあり方 日本の危機に求められるリーダーシップとは何か

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船橋:当時の官房副長官だった福山哲郎さんが、後に反省の弁として、官邸での危機対応が「子供のサッカーのようになってしまった」と言っていました。フクシマの現場では電源がやられましたから、電源車が必要だということになり、秘書官や官僚だけでなく、官房長官まで携帯電話を片手に、目を三角にして電話をかけまくるというありさまになった。

船橋洋一(ふなばし・よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある(撮影:尾形文繁)

電源車といっても、電源車の出力のジョイントコネクタと、入力側のコネクタのサイズが合わなければ使い物になりませんから、電源車だけでなくジョイント用の器具など必要なものは他にもあるわけですが、そうした技術的な細部について冷静に判断できる人も、それを指摘する人もいなくて、皆が同じ方向に走り出してしまった。

専門家の意見に耳を貸すという部分でも、官邸と専門家のコミュニケーションがうまくいっていませんでした。フクシマのときは、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長がサイエンスアドバイザーでしたが、菅直人さんは東京工大の出身で、政治家として原発の問題にも取り組んでいました。なまじ知識があるため、アドバイザーを試すような物言いが目立ちました。

1号機の水素爆発はないと言った班目さんに爆発後、「お前は、爆発はないと言ったじゃないか」と何度も怒鳴る。相手は首相ですから、班目さんは怯んでしまって、助言者としてまともに機能しなかった。

政治家と専門家

今回のパンデミックでは、諮問委員会の尾身茂会長がサイエンスアドバイザー役ですが、政治家とサイエンスアドバイザーの関係は、課題はあるとしても、フクシマのときに比べると、うまく機能していると思います。

重要なことは

① 専門家は原理原則を主張するのではなく、政治にできることとできないことがあることを認識し、ともに知恵を絞る

② ただし、専門家はあくまで専門的な事柄に関する助言者であり、決断し、責任を取るのは政治家である

③ 専門家は政治家が聞きたくない「不都合な真実」を伝えなければならない

ということだと思います。サイエンスアドバイザーには、専門の知識だけでなく政治的成熟が求められる、きわめて重要な役割を負っていると思います。

戸部:専門家と政治指導者の関係というのはある意味で、軍人と政治指導者の関係に近いのだと思います。軍人は軍事的安全保障という観点から最大限の措置や資源の配分を求めます。しかし、それが政治的な判断として正しいかどうかはわかりませんから、その判断は政治家に委ねることになります。

それは、ときに両者に緊張関係をもたらしますが、軍人は政治家が軍事だけではなく、全体を見て判断していることを深く理解していなければなりません。しかし、戦前の日本軍の軍人はそれを理解できませんでした。あるいは、軍人自らが政治指導者になってしまいました。それが日本軍の愚しいところであり、日本の悲劇だったのだと思います。今の自衛隊の幹部はおそらくそれを良く理解していて、フクシマの時にも良く働いてくれたと思います。

専門家と政治家の関係が緊張するのは、非常に難しい問題に直面しているからで、今後もそのような問題に直面することもあると思います。ですから、ご指摘のとおり、政治家が専門性を尊重しなければならないのと同時に、アドバイザー役を務める専門家の政治的成熟も非常に重要な要素となるのだと思います。

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