日本のリーダー「危機を語らず隠す」が招く大迷走

このコロナ対応を「失敗の本質」著者はどう見るか

戸部 良一(以下、戸部):『失敗の本質』は40年近く前に出版した本ですが、実は福島の原発事故の際にもよく読まれました。そして、今回も思い出していただいたということで、著者の1人としては大変うれしいことなのですが、これほど多くの方々に読んでいただいているにもかかわらず、同じことが繰り返されているとすれば、こんなに悲しいことはないとも思います。

コロナやフクシマの話に入る前に、前もって申し上げておきますと、『失敗の本質』で取り上げているのは「目に見える」敵との戦いです。が、フクシマの場合も、コロナの場合も敵は目に見えません。もっとはっきり申し上げると、意志を持たない敵との戦いです。そこは、切り分けて考えなくてはならないと思います。

戸部良一(とべ・りょういち)/防衛大学校名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。1948年宮城県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。防衛大学校教授、国際日本文化研究センター教授、帝京大学教授などを歴任。著書に『ピース・フィーラー』(論創社、吉田茂賞)、『自壊の病理』(日本経済新聞出版、アジア太平洋賞特別賞)などがある(撮影:尾形文繁)

戦争の場合には相手も意志を持っていますから、ある程度、予想や予測を立てることができます。もちろん、相手に予想を裏切られる場合もありますが、相手の文脈で考えることができれば予想は立てられます。

しかし、意志を持たない敵の行動を予測することは難しいと思います。科学的な知見の蓄積で、ある程度は根拠を持って予想できるところもあるとは思いますが、ここが目に見える敵との戦いとは違うということは、前提として理解しておかなければなりません。

もう1つ、顕著な違いがあります。『失敗の本質』では6つのケースを扱っていますが、そのうち、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦の5つは自ら攻めていった戦いで、相手から攻められたケースは沖縄戦だけです。つまり、私たちが分析した日本軍の戦いの大半は自ら攻めた戦いです。

一方、コロナもフクシマも、ある意味で、攻められている戦いで、その違いはあるのだと思います。だからどうした、と問われると、それに対する回答を持ち合わせているわけではありませんが、違いがあることは考えておく必要があると思います。

官僚制の本質は戦前から変わっていない

船橋:私どものシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ=API」(当時、日本再建イニシアティブ=RJIF)は福島の原発事故の際に、民間事故調査委員会を立ち上げ、調査・検証し、報告書を作成しました。それとは別に私自身、その後も取材を続け、危機の現場の様々な姿を拙著『フクシマ戦記』(文芸春秋社刊)で描き、今年刊行しました。

そこで痛感したのは、日本のガバナンスには深刻な問題があるということでした。とくに、リスク評価とリスク管理のギャップ、各省庁の司司のタコツボ・縄張り、そしてリスクを引き受け、ガバナンスを効かすリーダーシップの不在といった問題です。戸部さんがご覧になって、どこに問題があるとお考えですか。

戸部:『フクシマ戦記』を拝読して、最も興味深かったのは「戦記」と表現されていたことです。確かにそうだな、という思いを強くしました。私の問題意識に添って申し上げると、最も関心を持ったのは、官僚制とリーダーシップの問題です。船橋さんも『フクシマ戦記』で言及しておられますが、官僚制の本質は戦前の日本軍の時代から変わっておらず、そこに問題があるということだろうと思います。

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