日本のリーダー「危機を語らず隠す」が招く大迷走 このコロナ対応を「失敗の本質」著者はどう見るか

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船橋:これは、リスク評価とリスク管理に関わるテーマですが、フクシマでもコロナでも、今は大変な状況なのだということを言うと、国民がパニックになるのではないかと恐れて、リーダーは危機の実体と有事の対応策を真正面から言うことをためらう傾向があります。福島原発事故前までの原子力安全規制側の決まり文句は「住民に不必要な不安と誤解を与える」ようなことはしない、というものでした。

戦中の大本営発表と同じだとまでは言いませんが、国民が不安になるようなことを言うのはできるだけ避け、「いい知らせ」だけを伝えようとする。国民に安全と安心を保証する政治は間違ってはいませんが、ややもすれば安心を優先させその結果安全を犠牲にしてしまっているということがあるのではないでしょうか。

安心ポピュリズム

私はそれを「安心ポピュリズム」と名付けているのですが、与党も野党もメディアも、そしてほかならぬ国民も安心を要求します。そしてその結果、人々を不安にしかねない「リスク評価」、そうした「想定外」を織り込んだ訓練、有事に備えた法制度改正、「最悪のシナリオ」策定などのタフな案件は敬遠されるのです。この「安心ポピュリズム」、戦前はどうだったのでしょうか。

戸部:それは大変難しい問題ですが、恐らく、指導者が国民をどの程度信用しているかということに関係しています。船橋さんご指摘の「安心ポピュリズム」は、ある種の愚民観によって立っているのだと思います。国民を信用していれば、政府や指導者が持つ正確な情報をストレートに伝えるはずです。

私は、多くの国民は理解する、と楽観的に思うのですが、政府が正確に情報を伝え、国民が冷静にそれを受け止めるということを繰り返し、慣れていかなければ、何時まで経っても、政府が本当のことは隠すという状況は続くのだと思います。

戸部氏が野中郁次郎氏らとまとめた『失敗の本質』は40年近く読み継がれるベストセラー。船橋氏の著書『フクシマ戦記』でも指摘された官僚制の本質は戦前の日本軍の時代から変わっていない(撮影:尾形文繁)

またチャーチルの話になりますが、ドイツとの交戦中、ロンドンに夜間の爆撃が集中していったときのことです。このとき、ドイツの侵攻を食い止めるため、イギリス軍は航空機とパイロットを温存する必要があり、夜間の爆撃には全力で反撃していませんでした。

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ある評伝によると、チャーチルが爆撃を受けた町を翌朝、慰問に訪れたとき、そこで多くの住民に囲まれてしまいました。チャーチルは一瞬、危険を感じましたが、住民は怒って首相を囲んだのではなく共感を示すために集まってきたというのです。帰りの車中でチャーチルは感涙したとも伝えられています。

このエピソードがどこまで事実なのかはわかりませんが、指導者が率直に状況を語ることの重要性をよく示していると思います。指導者が真実を率直に語っているからこそ、国民も状況を理解し受け容れたのではないでしょうか。

(第2回に続く)

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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