船橋:ここで、官僚制とリーダーシップという問題提起をいただきました。それに関連して、まず、コロナとの戦いについて伺います。
菅政権は7月末までに高齢者全員に対してワクチンの2回接種を終えると、大見得を切りました。1日、100万回の接種という大号令です。ただ、これまで1年間のPCR等検査の実施状況を見ても、こんな数字本当に達成できるのか、と国民も半信半疑なのではないでしょうか。私も高齢者の1人で、住まいは横浜の鶴見区ですが、接種券は届いたものの昨日(5月10日)50回ほど電話してもつながらない状態です。
そんな状況にもかかわらず、誰も菅首相に「総理、それは無理です」と言わなくなっているんじゃないか、「数合わせ」と「忖度」の危機管理になってしまっているのではないか、と危惧しています。
もう1つ、対策に優先順位が付けられていないのではないかとも感じます。PCR等検査とワクチンは最大限、必要な資源を投入して、断行する最優先順位課題ではなかったのか。またしても、「逐次投入、小出し」の様相を呈しているようです。この辺りは、どうご覧になっていますか。
リーダーは危機を率直に語るべき
戸部:私は昔のことしかわかりませんので、その辺をわきまえて申し上げますが、今はテレビがあり、SNSがありということで、指導者は頻繁に国民の目にさらされています。戦前は、日本だけでなくどの国でもそんなことはありませんでした。せいぜいラジオがあったぐらいです。
で、議会の場やラジオを使って国民を説得するわけですが、例えば、チャーチルやルーズベルトの演説を文字で読む限り、指導者は数字を出して細かいことは言っていません。むしろ、今の状況がどれほど逼迫しているかということをストレートに話して、打ち克つために何をすべきかを端的に訴えています。その違いだと思います。
「血と涙と汗しか提供できるものはない」というチャーチルの有名な演説がありますが、そのときも、ドイツ軍は強いと言って、いかにイギリスが危機的な状況にあるかを率直に述べています。
船橋:「数字を出して細かいことは言わない」ですか。危機の時、リーダーが国民に伝えるべきは数字でもない、細部ではない、ということですね。
戸部:きちっと危機の状況を言わないと結局、説得力がないのではないでしょうか。数字は専門家が言えばいいのであって、リーダーは率直に危機について語るべきです。
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