まず、障害の源となる怪我や病気で弱った心身を治療する医学。これには各臓器医療に加えて、老人学としての全身医療や、認知機能の治療などを含みます。心機能を管理しつつ、心肺機能のぎりぎりまで攻めます。次に、24時間にわたって患者を管理できる体制。心身の回復には昼に活動し、夜は気持ちよく眠ることが重要で、そのためには医師よりも看護師の力が重要になります。
そして3つ目が、必要な機能(筋力や耐久性、日常生活動作)を鍛えたり、弱った意識や意欲を回復させたりするための療法士によるリハビリテーション訓練。この3つがそろって初めて、「攻めのリハビリ」は成立します。
乙武:複数の領域に跨った、24時間体制のリハビリテーションが前提である、と。
酒向:そう、だからこそチーム医療が重要なんです。
現実的にどこまで回復できるのかを見通す
乙武:従来のリハビリテーションは、機能の衰えに応じてなるべく無理のない範囲で行われるイメージが強いですが、酒向院長の場合は脳の専門医であることから、先に脳の画像を分析して、現実的にどこまで回復できるのかを見通したうえで、そこへ向けて努力するというスタンスですよね。いわば、「あなたはここまで回復できるのだから頑張りましょう」とお尻を叩きながらやっていく方針というか。
酒向:おっしゃる通りです。脳が損傷しているケースでは、どこまで回復できるかというゴールが明確ですし、たとえば100歳の高齢者が転んで骨折し、車椅子生活を余儀なくされたとしても、骨は必ず治りますので、計算された無理のない訓練次第で前以上に動けるようになるのは間違いないんですよ。その意味で、これまでの定説よりも上を目指すというのが、「攻めのリハビリ」の基本です。
乙武:酒向院長がこの「攻めのリハビリ」を提唱し始めてから、はや10年超。当初は異端扱いされることもあったと思いますが、状況は変わりつつありますか?
酒向:すでにこのスタンスは常識になりつつあると言っていいと思います。チーム医療も、今や当たり前のことですから。
ちなみに私たちの考えるチーム医療とは、各職種の医療チームだけでなく、患者と家族を含めてチーム医療と捉えているのが特徴だと思います。やはり患者と家族がその気になってくれなければ、退院後の予後の見通しが立てにくいですからね。
乙武:なるほど。院長が運営されている「ねりま健育会病院」は、まさにその環境が整えられているわけですね。
酒向:そうですね。何らかの理由で障害を負った地域の皆さんが、心身の機能を回復させて日常を取り戻すこと、その喜びを共有することを目的に設立した病院です。患者と家族の心と気持ちを共有する医療環境を整えています。
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